17話
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燦々と燈る星の光、柔らかく降りる丸い月光。森閑を湛えた黒い森には虫の音の一つも無く、風の音すらも沈黙を保っていた。
全くの無音。音という概念すら消失した様は、生命の存在性すら許さぬ常闇の空を想起させた。
―――静謐というにはあまりにも冷たい漆黒の森の中、星光を蓄えたようにぽっかりと円状に何もない空間があった。新芽が萌えたばかりの背の低い草に覆われた空き地の中央にだけ、背の低い若樹が聳える。
昼であれば青々とした葉を元気よく空に伸ばし、明るい照りを受けて大樹へと健やかに育っていく樹。その樹の、根本。
くちゃくちゃと響く淫水の音。
情欲をかき混ぜる青い嬌声。
心臓が溶鉱炉のように灼熱する。
熱に浮かされて脳細胞は既に死滅してしまったのに、それでも頽廃的破滅的に女の肉を貪る彼。
そんな男女の秘め事を、『私』は風景画を眺める眼差しで目にしていた。
彼は己であるところの私だった。
横たわる白い肢体に覆いかぶさるようにして、その肉を食らう雄。彼が身じろぎするたびに白い少女が甘ったるいよがり声が無音の世界を犯す。
嗚呼、これはセックスなんだな。
彼から遊離した『私』は、明らかに興奮しながらも冷静に断じた。だから、これがまぐわりなんだという判断が誤っていることにもすぐ気が付いた。
淫な声に混ざる拒絶の声。喜悦に溺れながらも彼の手を逃れようともがく少女の姿を目にし、眼前の生殖行為が正当なものではないのだなとわかった。
これは強姦しているんだ。だって銀髪の少女は嫌がっているもの。彼女は『私』の物ではなくて違う誰かの物なんだもの。
嗤っていた。顔に触れなくてもわかる。彼が嗤い、彼であるところの己である自分も同じように、悦楽と嗜虐に歪んだ神聖な笑み。
道徳?
倫理?
―――快楽。
白い少女を組み伏し、背後から少女の肉に己を突き刺す。もう抵抗することもしなくなった少女の腰を片手で抱き込み、空いたもう片っぽの手で存外に大きな『にく』を味わう。
何の不満があろうか。何の不満もない。
もとより『私』は―――。
果てた。
死んだ。
彼女が、彼が、己が白濁に染まる。
臓物が散らばるように、絵の具を撒くように。
白の中に白を―――。
※
絶叫。
咽喉よ裂けよと言わんばかりの慟哭で意識を取り戻したクレイは、その声の主が自分であると気が付くのに幾許かの時間がかかった。
酸素を求める水槽の小魚のように、口元を強張らせて空気を求める。にもかかわらず咽喉やら肺を動かす機能が痙攣し、肝心な酸素がちっとも吸えない。
ただ呼吸をする、という生命活動の初歩的動作をするのに四苦八苦すること十数秒。ようやっと呼吸が落ち着き始める。
定期的なリズムをとる
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