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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
16話
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 女の買い物に付き合わされるのは疲れるんだよなぁ。
 そう語っていたのは攸人だったか、あるいはヴィルケイか。士官学校時代の同期だったかもしれないし、あるいは存在価値が疑わしいバラエティ番組だったかもしれないし、厚顔無恥に己が意見を嘯くだけの無能なニュースキャスターがニュース番組の合間に語った言葉だったかもしれない。あるいは―――。
 ―――とにかく、女の子と一緒に歩くというのは良いことばかりではないというのは、世界に遍在する人類でも男性性が有する共通認識らしい。クレイは、そんな普遍の価値観を贅沢な悩みだと思っていた。女の子のちょっとの我儘の一つや二つ、いや三つや四つも受け入れられないで弱音を吐くのは驕慢甚だしいと鼻息を荒くしたものである。モテない男の僻み根性だという異論は断固却下の姿勢を堅持していた―――が。
 ぎゅうぎゅう詰めというほどでもないが、それなりに人も多い。そんな様相のファストフード店内にあって、クレイは溜息混じりに半円になったハンバーガーを頬張る。
「そしたらさーそいつなにしたと思う!? いきなりこっちの頭撫でてきたんだよ! 信じらんないよねー、頭撫でれば惚れるとでも思ってんのかしら」
 その瞬間を思い返したのか、顔を青くしながら怒り心頭といった風のアヤネが声を張り上げる。そんなアヤネに大仰に顔を顰めながら話をするのはジゼルだった。
 ジゼルの《ガンダムMk-X》もオーバーホールされるために休暇、ということもあってアヤネの買い物に付き合うこととなったのが昨日のことである。
 そもそも、荷物持ちの役割だとしても、アヤネと二人きりで街を歩くというのも、よくよく考えてみればクレイの人生天地開闢以来のイベントではないか。素直に嬉々としたものを―――そしていくばくかの情けなさを―――感じたが、同時に問題も浮上する。元々女っ気皆無なクレイには、いざ女の子と二人っきりになって満足に会話できる自信がなかった。恥ずかしいから、というのではなく、会話のネタがないのだ。そう考えれば、アヤネの話し相手にジゼルがいるのは大助かりだった。この際、ジゼルが増えたことで運ばねばならなくなった荷物量に関しては目を背けて余りあると思うことにした。
「ねー、どう思う?」
 隣に座るアヤネがクレイに話を振る。ぎゅっと顰めた眉からして、話は先ほどの続きのようだ。
 クレイも差し障りのない返答をする。他人を侮蔑することはあまりしたくないが、余計な一言はその場の空気を殺すとクレイは重々承知していた。生真面目を美徳とするクレイが素の反応を返せば、合コンなどでは沈黙が元気よく「こんにちは」するのを、身をもって経験している。
 はたしてクレイの返答に満足したらしいアヤネは大きな声でクレイに賛同の意を表明すると、再びジゼルとの会話に華を咲かせた。
 肺に溜まった温い空気を横
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