16話
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かご褒美なのか…わざとらしく顔を険しくし、冷却水を飲み干した。
「あれだけ意識してたらねぇ…丸わかりだと思うケド」
2口ほどでハンバーガーを平らげ、照り焼きソースをナプキンで拭ったジゼルも意味深な笑みの視線をくれた。
あの夜より数日、それまでと違い平時からエレアも仕事に出るようになった。なるべく平静を装うようにしたつもりだったが―――わかりやすい質、とクレイを評した攸人の言葉の幻が耳朶に触れる。
だが―――と思う。
好き、Like、Love、Lieben……。
頭で思い浮かぶ好意の言葉、そしてその好意に付属してしかるべきな感情。当然、エレアに対してのクレイの心持ちを好意と捉えるならば、それらの感情があって然るべきなのだ。それはユダヤかキリストか、あるいはイスラームか、それともその他アニミズムの神々が定めるまでもなく、人類必定の原初根源の意思である。そこに疑いを挟む余地は欠片ほどしかない。
言い換えれば、欠片ほどは余地がある。
「ま、あれでエレアちゃんも気が付いてないっぽいけど」
「えーそうなの?」
クレイの思案を遮ったのは、朗らかなジゼルの声だ。
すかさずもう1つハンバーガーを口に放り込んだジゼルが悩ましげに眉を寄せた。
「あの子鈍そうで鋭いんだけど、鈍いことにはとことん鈍いから」
「ふーん」
人の恋愛の話でこうも話ができるものか―――感嘆していいのやら呆れるべきなのやら。まだ動悸の収まらない心臓を深呼吸で鎮め、そして不愉快な根源への探求を頭から押しのけるためにも、クレイももう1つのハンバーガーへと手を伸ばし―――。
「あ、コラ!」
―――その速さは音速を超え神速。
弧を描きながら圧倒的な速さでもって振り下ろされた握りこぶしは玄翁もかくやといった威力だった。音にすればごり゛ゅ゛、とでも形容しよう異様な音とともにクレイの左手の甲がぐしゃりと潰れる。ハンバーガーを綺麗に避けての鮮やかな一撃は称賛に―――。
「って痛ったー!?」
「人の食べ物を取ろうとした罪は重いんだゾ」
むすっと口をへの字に曲げるジゼル。
「いや、それクレイのでしょ……」
「えっ」
先ほどのまでの表情はどこへやら。声を失ったジゼルがトレーの上をまじまじと見つめる。
ジゼルの手前にはトレー一杯に積まれたハンバーガーと紙屑の山。ジゼルのその攻撃は小高い山を超え、今まさに己がハンバーガーを取らんとしていたクレイの手の甲を捻じ伏せていた。
「あんた本当食い意地張るよね」
「うぅ……ごめん……」
「いや良いですよ」
委縮するジゼルに引きつった笑みを浮かべる。
わかってくれるならそれでいい。わざわざ些末なことで声を荒げる必要もない。
「しっかしあんたよく食べる癖に全然太らないよねぇ」
溜息交じり
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