16話
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隔膜が押し出す。小さく洩らした溜息に、アヤネとジゼルが気づいた様子はない。
こういう空気感は嫌いじゃない―――が、苦手だった。アヤネやジゼルだけでなく、世の中の多数者を閉める『普通』の人たちの騒がしさ。それらが煩わしい、などと思春期の少年少女のような瑞々しい反骨心からではなく、単に自分がその場に馴染めないという、周りから排斥されている感触。
重ねて言うが、それが不愉快とか嫌いなのではない。ただ、疎外に対する微かな寂しさを感じるだけだ。
ちらつく男の影。苦労という言葉を知らず、さりとて人並みの努力で常人を凌駕していく男。それであって、己が素質を衒うこともしない姿をして傑物。
口内に滲む苦い液体の感触を紛らわすように、1/4サイズになったハンバーガーを口に押し込む。水分でべちゃべちゃになったパンと、碌に肉汁も含まないパサパサのパテの味は値段相応のチープさだ。
パンくずのついた指を払いながら紙コップに満たされたメロンソーダを流し込み、トレーの上に置く―――ついで、椅子の下に置かれた荷物の量を一瞥して、少し身震いした。
取り立てて周りより煩いわけではないが、ひっきりなしに会話する彼女たちに膨大な荷物の量。思わず閉口したクレイは、贅沢な悩みという考えは変えないが、いささか検討の余地があるな、と思った。それでも、ホットパンツから延びるアヤネの綺麗な生のおみ足が眺められるんだったら全然苦じゃないな、と本気で思うあたりに、クレイ・ハイデガーは実は単純な思考回路をしているという証明だった。
特にすることもなく、メロンソーダのコップを呷り―――。
「そういやあの部隊にやたら紗夜にお熱な奴がいるけどさぁ」
山盛りになったハンバーガーの中から一つ取り出し、剥きはじめたジゼルが思い出したように言う。
少し口にして、飲むのをやめた。
コップを呷ったまま眉間に皺を寄せ、隣と前に座る2人の視線を把握した。
今2人の会話の矛先は自分に向いているのではあるまいな―――。そんな嫌な予感は、
「クレイってやっぱりむっつりなの?」
「は? なんですか?」
的中していたが、予想していたのとは違っていた。
「いやーだって紗夜は普通だけどエレアのこと好きなんでしょ?」
違っていたが、より質が悪かった。
全身がむず痒くなる。好き、というただの一言が脳内細胞をひたひたと浸透し、視床下部を麻痺させる。
「な、何を根拠に……」
「顔赤くしてムキになるあたり図星だよねー」
「ねー」
頬杖をついたアヤネが野卑な笑みを浮かべる。なおのこと顔を赤くしながら口を噤んだ。こうしてからかわれては顔を赤くして、その様をなおからかわれるという一連の流れは今日一日で、片手で収まりきらないほどには経験した。かわいい〜、などと横から頬をつつかれるというのは侮辱なの
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