15話
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けのロッカーの中に仕舞われた服の『イマドキの女の子らしさ』に眩暈を覚えたものだ。そんなロッカーの下に、直線的な時間の中で、時代の中に敢えて留まることを選んだ古の書物がぎっちりと並んでいるというのも妙な光景だった。
ラウンジに備え付けの自動販売機から飲み物を三つ買い、アヤネと紗弥に渡すと、クレイも椅子に座った。
缶のプルタブを開けると、鼻を貫く涼しい匂いが鼻の粘膜を刺激する。真っ黒なコーヒー缶に口を付ければ、後味残さない安っぽいブラックコーヒーの味がした。
「よくこんなの読むなぁ。頭おかしいんじゃないの?」
ココアの缶を呷る紗夜が苦い顔をして本を捲る。厚さも相応で、著作者の名前を見れば猶更尻込みする。
実際、哲学者なんてものは頭がおかしいものだ。クレイ自身も、自分の性癖を鑑みれば「まっとうな一市民」とは言えない気がする。紗夜のある種侮辱になりかねない発言も、特に不快なく聞き入れた。
―――まぁ、そんなものになる必要などないが。
「まぁそんなもんよね。デカルトなんて雇ったメイドに子ども産ませてるし」
アヤネの顔が笑みを浮かべる。その世俗的な言い様に何か反感を覚えたが、アヤネとてあえてそういう言い回しをしたのだろうと思えば何か言うこともあるまい。気持ちを静めるようにコーヒーを飲む。苦いだけなのに不味くはない、不思議な飲み物だなと素朴に今更なことを感じた。
「でも実際これ読んで理解してるって思うと凄いと思うんだけど。不在が現前……?」
さっぱりわからない、とペラペラ捲っていた本を群れの中に帰してやった紗夜は俗っぽい笑みを浮かべながらも、どこか感心したようにアヤネとクレイを見比べた。
「うーん理解してるかっていうとどうだろう……」
腕組みしたアヤネが眉間にしわを寄せ、クレイにどう? と尋ねる。
「何をもって理解したかとするとか、そもそも第一理解ってなんだとかって話ですか?」
「やっぱそうなるよね。研究者の間でも論争的なのに何を持って理解したとするのかがなんとも」
思いがけないアヤネの話振りに少し驚く。クレイ自身、こういう話を他人としたことはなかっただけに、よもやこんな綺麗な女の子とこんな話ができるというのがなんとも違和感がある。それでもその違和感も、嬉しい違和感というところだ。
「そんな話はまぁ良いとして。実際あたしは趣味で読んでるだけだから大したことないけどクレイはそれで論文とか書いたことあるんだから凄いと思うよ?」
うんうん、と紗夜も頷く。
「いやまぁ書くなら誰でも出来ますし……」
「でもさぁ、ジャミトフを語ろうってその姿勢が凄い好きだよ。当時なんて反ティターンズ意識バリバリだったのに敢えてジャミトフを再評価しようっていう心意気? 格好いいじゃん」
にこりと浮かんだ彼女の笑みは、見惚れるほどに綺麗だった
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