13話
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何故、という言葉だけが脳みその皺に沁みこんでいく。
男はノーマルスーツのグローブで覆われた手のひらにじっとりとした汗をにじませた。そうこうしている間にも、男は仲間に指示を飛ばす。普段なら穏やかな声で了解の応答があるが、返ってきた部下の声は切迫に塗れていた。
こちらは一個中隊計6機なのに。乗機は《ジムV》とはいえ後期生産モデルが高々3機のMSに―――。
(なんだよこいつら! なんなんだよ―――)
同僚の絶叫という名の呪詛は後には続かない。バレーナ06の通信ウィンドウが砂嵐に変わると同時に全天周囲モニターの中で血のように赫い薔薇のような爆破が押し広げられた。
またやられた。
何の装飾もされない純粋なまでの恐怖に汚染された思考を無情に破砕する攻撃警報に全身を強張らせた。
敵は直上。
見上げた男、バレーナ02は見た。
両腕に斧剣を構えた単眼の狩人。巨大な肩から大出力のバーニア光を背負ったそれは、恐ろしいまでに冷たい黒の世界にあって、極めて凡庸な色彩だった。
敵識別―――MS-14J《リゲルグ》のその色は、バレーナ02も覚えがあった。15年ほど前、あのア・バオア・クーで見たお世辞にも強敵とは思えなかったMS-14《ゲルググ》のカラーリング―――。
バレーナ02は必至に操縦桿のトリガーを引いた。パイロットの動作に連動して《ジムV》がビーム砲のトリガーを引き絞り、眩い光軸を屹立させる―――しかし《リゲルグ》は微塵の回避動作すら見せずにその砲撃を躱して見せた。
何故の一言が脳の内部まで沁みこみ、そのぶよぶよの神の器官を膨張させ、頭蓋を逼迫させる。簡単な任務だったのではないのか。相手はパラオからやや離れた宙域で実機訓練をするただのひよっこ―――ひよっこ以前の存在ではなかったのか。
《リゲルグ》が斧剣を横なぎに払う。
狙いは右腕。火器を保持した腕を裁ち切らんとする紅蓮の閃光が網膜の中で暴れた。それでも、咄嗟にシールドを構えられたのは一重にパイロットとしての感だった。
―――が、既に何発ものビーム砲を食らったシールドの対ビーム被膜は大出力の斧剣を2秒と止められなかった。赤化するや否や暴力の権化たる光がシールドを叩き切り、その勢いのままに左腕を切り裂き、剣筋にあった頭部ユニットをぐずぐずの鉄塊にした。
ざっと全天周囲モニターに砂嵐が走った瞬間は身を縮ませた―――が、バレーナ02はすぐ理解した。
猪突の勢いで切り裂いた《リゲルグ》は止まれない。すぐに反転できるはずがないほどの速度だった―――。
振り向けばそこには無防備にさらされた《リゲルグ》の背があるのではないかという閃きが肥大化した脳を押さえつける。ならばと即座に《ジムV》を反転させ、右腕のビーム砲を叩き込んでやると狂乱的な思考を持ったバレーナ02は、己が愚劣
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