12話
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L1ラグランジュポイント・パラオ近辺。
度重なる負荷Gの圧。身に親しむ用在の感触に満足しながら、マクスウェルは巨人の胎の中で星海を泳いでいた。
悪くない―――己が愛機となったMS-14J《リゲルグ》の感触を確かめつつ、デブリの中を俊敏でもって駆け抜けていく。
(コマンドポストよりヴォルフ01、ポイントE2、マイナス2.4を観測)
ミノフスキー粒子の干渉を受けた雑音の多い無線の奥に渦巻くどよめきの声。多少の自尊を意識しながら、それでもマクスウェルという男は溺れることなく、鮮やかな青と赤に塗り染められた愛馬を強引に躾ける。
至近に流れるデブリなどはいっそ加速のための踏み台にしてみせ、事もなげに障害物の群れの間隙を鋭角の軌道縫うようにしてルートをなぞる―――。
MS-14の型番を見るまでもなく、《リゲルグ》はかの《ゲルググ》の改修機である。もともとジオン公国軍の次期主力機として開発された機体だ。汎用機として開発されたその由来通りに癖のない機体特性に、近代化改修によるセンサー類の刷新に高い主機出力の獲得、加えて出力に振り回されぬように慎重に調整されたバランス。機体の安定性は新人の高等練習機としては申し分ない。そればかりでなく、実戦用に改修すれば実戦にも十分耐えられる性能を有する《リゲルグ》は傑作機と呼ぶに足る機体だ。
あと一か月早ければ―――そんな語り口で紹介される不運の名機MS-14《ゲルググ》の有用性は、10年を超える時代を超克し、実証されたのだ。
MS、という機動兵器に対して特段思い入れのないマクスウェルだが、MS-14ナンバーを持つ機体だけは別だった。マクスウェルが初めて実戦をともにし、少ないながらもMSパイロットとして死線を共に潜り抜けた愛機の血統を持つ《リゲルグ》には、言い知れぬ親しみを感じていた。
(ヴォルフ01、ポイントE3クリア、マイナス―――)
オペレーターの声を鼓膜の奥に響かせながら、普段寡黙なマクスウェルの口角は知らず上がっていた。
※
「良い機体でしょう、こいつは」
見慣れぬ整備士が自身に満ち満ちた表情を向ける。初老にもなろうかという男の髪の毛には白いものが混じり始めていたが、がっちりとした体躯からは老いを感じられなかった。
予想以上だった、と応じるマクスウェルの声も自然と声が大きくなる。
マクスウェルと整備士が顔を上げる。
ガントリーに窮屈そうに押し込められた訓練兵用の《リゲルグ》の峻烈な面持ちも、どこか満足げに見えるのは何も気のせいばかりというわけでもあるまい。
「隊長!」
耳朶に触れる甲高い声。見知った少女の声に、振り返りながらマクスウェルは普段の鞘に納めた剣のように張りつめた雰囲気を感じさせない声色で応じた。
栗色の健やかな髪を短く切りそろえながら、長く垂れたもみ
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