11話
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は、笑みを作った。安堵の笑み、なのだろうか。
内心で舌打ちする。かつての自分の行いが知らず、誰かしらを傷つけてしまうとはなんという失態であろうか。無論、当時の自分にそれを予測しろというのも無理な話である。3、4年後に、全く関わりがないような場所でこんなにも可愛らしい少女を傷つけるなぞどうして予測できようか。そんな話は重々承知したうえで、よりにもよってとは思う。
「でも嫌いじゃないんだったのならよかったな」
えへへ、と笑った彼女の笑みは、ただただ純真だった。喜、という感情をストレートに表すだけのその無邪気さに、クレイは見惚れた。23歳。その年齢がイコール彼女いない歴な彼には、ついぞ無縁なその笑みに、心臓が不整脈でも起こしたかのように痙攣して―――。
彼女の身体が不意に揺れた。それがなんなのか、を判断するより早く、クレイの身体に重さがのしかかった。
触れ合うのは肩。
経験した事柄はそれ。
判断はそこまで。否、それだけでもない。そのまま、彼女はころん、とクレイの肩に絹の頭を乗せた。
「あ、あの……」
「なに?」
恐る恐る身近に迫った彼女を見て―――ついとこちらを見た紅い光との相対距離は寸前。違う。彼女のその白い、白い肌が近い。
心臓が痛い、痛くてしょうがない。鼻孔から突き抜ける蠱惑的な彼女自身のその甘ったるくねっとりした杏の香りが、粘性となって心臓を縛り上げる。
「何をしてらっしゃるのかなと……」
返答は先ほどの笑み。それだけで、クレイは顔が真っ赤になるのを感じた。
心臓が痛い―――でも治らなくていい。俯きながら、彼はそんなことだけを考えた。
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