10話
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大きく伸びをする―――。
栗色の髪の毛を幽らしたクレイが張り出したキャットウォークの前でふらふらと身を揺する。暇な時にクレイがやる癖のようなものだ―――と、攸人は把握していた。
背中越しの親友の顔は窺い知れないが、クレイが緊張しているということは手に取る様にわかる。士官学校時代からの知り合いである攸人は、クレイとは様々な面でタイプの違う男だったが、長い時を共に過ごせばそれもわかるというものだ。
「限りなく実戦に近い形式でやりますけど、N-B.R.Dに関しては初回なので予測期待値の調整でいきますからね」
キャットウォーク上に備えられたシミュレーターの調整を行うコンソールを叩くモニカが言う。目の下にできた黒い帯のせいで、いつものあどけなさと理知を内包した麗も気だるげなものに見えた。
と曖昧な返答と共に、クレイは振り返りもせずに手をひらひらと振る。
やっぱりな―――小さく笑った攸人は、「リラックスリラックス」と声を上げた。
「わかってるよ」
上半身を捩るだけで振り返り、声を張り上げる。強がりでもあり、またリラックスのためのおふざけでもあり―――普段小難しいことを考えている割に、身振りはわかりやすい奴だ。
(コマンドポストより各員、準備完了しました。パイロットはコクピットへ)
ヘッドセット越しに聞こえるアヤネの声。了解、と返事をしたクレイがどこか重たい足取りで丸っこい機材の中へ向かうのを、手を振って見送った攸人は、腰に手を当てた。
わかりやすい奴―――だ。士官学校の時から、そして今に至るまで。
「俺もやりたかったなぁ」
やや、愚痴っぽく嘯く。隣にいたモニカがきょとんとした顔をした。
「クレイさんの次まで待ってくださいよ。次になったら思う存分にやってもらっていいですから」
困った様に笑みを浮かべる彼女に、わかってるよ、と笑みで返す。
笑みを浮かべながら、軽く―――悟られないように鼻息を吐いた攸人は、その脇に設置されたシミュレーターを眺めやる。感覚にして20メートル幅を持って鎮座するその球体は、ともすれば神仏でも祀る依代か何かに見えた。
「どうなることやら―――」
ぼそと呟く言葉に、モニカは特に反応しない。聞こえなかったのだろう。聞こえないようにしたのだから。
(これより演習を開始します。シミュレーター起動、繰り返す、シミュレーター起動)
※
脳髄の奥底は、本能的なるものを司るという―――。
脳髄の奥から澱が沁みだし、ヘドロのように溜まっていくような、そんな意識の薄さを感じたクレイは、赤く濡れた唾液を飲み下した。
規則的に鳴る電子音。
漆黒の『ガンダム』がデブリの中を駆けていく。
慣性モーメントによるAMBAC機動により、バーニア類の使用を最小限にしつつMSを制動する。
MS、と
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