10話
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せた。
「とんだサプライズだよ。あれって途中対人だったんだよな」
「そうだよ。「例の彼女」が相手」
ね、とモニカに顔を向けると、彼女も首を縦に振った。
なおのこと、身体が固くなる感触を味わった。
「例の彼女」―――。攸人の口振りがあまりにも馴れ馴れしいのに、ついぞ気が回らなかった。
あれだよ、と攸人が顎をしゃくる。つられて振り返ると、20メートルほど先のシミュレーの前で数人が何かをしているところだった。
ぷしゅ、と間の抜けた音が耳朶を打つ。おもむろに、シミュレーター装置の扉が開く。
ひょこりと顔を出した、パイロットスーツは、小柄だった。その小柄な人影が、ヘルメットに手をかけ―――。
あ、と声が漏れた。
ふわりと夢のように舞う白銀の光。
無邪気そうな、顔は、どこかで見たことがある顔だった。
心臓を握りつぶされるような拍動、頭に回る血液が沸騰しそうな緊張。
自分の息を飲む音が、嫌に大きく聞こえた。
スタッフからタオルを受け取った彼女―――エレア・フランドールが、こちらに気づく。
20メートルは距離がある。それでも、こちらを向いた彼女の生々しい真紅の瞳が、ゼータプラスの瞳と重なる。
真紅の瞳が見据えるのは、誰だろう。まだ幼さの残り香を匂わせるかんばせが、花のように綻ぶ。
あの、酷く甘ったるい緑茶を飲むときと同じようにちょこなんとした動作で、彼女が手を振る。
全身の痙攣を押さえつけるので、クレイは精一杯で―――。
「ほら、お前も手ぐらいだなぁ―――っておい、お前!」
知らず、クレイは逃げるように駆けだしていた。
攸人の声の残滓を鼓膜に残しながら。
モニカの黒々した瞳を網膜に焼き付けながら。
彼女の、エレアの容貌を、脳髄の奥に刻みながら―――。
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