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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
9話
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不味いことをしたかな、と委縮するのを感じる。
「まぁ、どうでも、いいけど。それじゃあちょっと説明するから中に入ってよ」
 なんの含みもないころころとした笑みを浮かべ、紗夜がコクピットの中へ入っていく。特に、気にしてはいないらしい―――少しばかりの安堵感とやるせなさが肺を満たしていくのを感じながら、コクピットへ向かった。
「おい、先生これからお楽しみなわけ?」
 場末った笑みを浮かべるヴィルケイ。「うるさいですよ」とつっけんどんに返しながらも、クレイの声にはふにゃけた棘しかない。
 手をひらひらと振り、キャットウォークの向こうへ歩いていくヴィルケイを見送りながら、開放されたコクピットハッチに足を掛ける。手でハッチの上部を掴み、勢いをつけて登る。
「早く、早く」
 コクピットシートに座り、手をこまねく紗夜の顔は、先ほどと同じで無邪気そのものだ。
 そこに淫猥な物は何もない。何もない。
 何も、ない。
 クレイ・ハイデガーにそんなイロっぽさも、淫の気配も、淀んだ匂いも。
 そういう頓着は、記憶になかった。だから、クレイは、乾いた咽喉を潤すために唾液を飲み込んだ。
 手招きにつられ、クレイは全天周囲モニターのコクピットへと身を入れた。球体の床を恐る恐る歩き、コクピットシートをよじ登る。
「はい、じゃー座って座って」
 いつの間にやら、コクピットシートから降りていた紗夜が、シートの後ろ―――複座の後部座席に座っていた。
 正確には、複座のシートに積まれた計器の上に座っていた。
 ちょっとの驚き。昨日まで、《ガンダムMk-V》のコクピットは単座だった。
「色々計器載せるために複座にしたんだと」
 考えを読んだように―――実際は、表情で読んだのだろう。軽く、こつんと自分の椅子になっている計器を叩くと、ニカっと笑みを浮かべた。
「結構大がかりな設備なんですねぇ」
「まぁ、サナリィもそれだけ気合入れてるってこと……かな」
 紗夜が、少しだけ眉を顰めた。
 この紗夜、という少女に出会ってから、1週間ほど。それでも、彼女の性格は大よそつかめてきた感があっただけに、この時紗夜の声色がいつもの調子でなかったのが異様な違和感となった。
 なんだろう。
 なんだろう―――?
「何か、あるんですか?」
「んあ? いやぁ、私も軍の人間だからね」
 笑みを浮かべる彼女。でも、いつものような笑みではない。
 なるほど、と思った。
「モニカちゃんはちょっと急用らしいから、FCSの調整とか色々調整は私がやってるだけなんだよ」
 このコロニーで推し進められている一連の計画は、地球連邦とサナリィの合同―――ということになっているのだが、無防備に技術を提供してくれるわけではないらしい。無論、上の方では色々な情報の提供が成されているが、現場レベルで
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