8話
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握に努めようとしたクレイは、まず何故ジゼルがクレイの部屋に来ているのか、ということだ。よもや寝過ごしているのか、と慌ててデスクの上の電光時計に目をやれば、まだ6時。起床ラッパがやんやん騒ぐまでは2時間近くの猶予がある―――違う。思い当たる節もないが、自分に思い当たる物が無いと思っているだけという可能性は十二分にある。故に、クレイは「ちょっと待ってください」と声を上げてしまった。
ジゼルが了解〜、と間延びした声を聞き終えると、なおさらクレイは焦った。ともあれ、クレイはベッドの布団に右手を痛いくらい執拗にこすりつけ、手のべたつきをほぼ拭い取る。後はさっさと汗だのなんだのでぐしょぐしょになったダークグリーンのタンクトップと下着を脱ぎ去り、部屋に備えられていたロッカーから下着とインナーシャツ、SDUを取り出すと素早く身に着けていく。ロッカー扉の内側の鏡で髪型を整え、缶スプレーの制汗剤を身体に一通り吹きかけ、最後は―――。
紙パックで山ができているデスクを振り返る。「ちょっと待ってくださいね」とドアに声を掛けつつ、山の中から薬の箱を取り出す。ふたを開け、5mmほどの錠剤を二つ取り出し、口の中へ放り込んだ。
後は少しもすれば、和らぐだろう。クレイは急いで扉へと向かい、ドアノブへと手を掛けた。
扉の開放と同時に、能面のような人工灯が網膜を刺す。
「おはよう。起こしちゃった?」
扉の向こうにいたジゼルは、少しすまなそうな顔をしていた。身だしなみを整えはしたが、顔を見れば寝起きかどうかはわかるのだろう。クレイも挨拶を返した。
「丁度そろそろ起きようとしていたところなんで」
「そう。なら良かった」
咽喉のいがいがを取るように、咳払いをしたクレイは鼻で息を吸った。
自分と同じくらいの身長のジゼルの顔はクレイのすぐ目の前―――綺麗な顔立ちだ。大人っぽいと言えば大人っぽいが、まだ10代の気が抜けきらない顔。美人と言えば美人だが、可愛いと言えば可愛いという形容もまた相応しい顔立ちの女性が、なんと自室の目の前にいるではないか―――クレイは、ありったけの哀しみを覚えた。
あ―――とジゼルが口走る。
「そうそう、隊長が呼んでこいって」
「ブリーフィングですか?」
デスクの時計を振り返る―――時間はさきほどと対して変化はない。
わざわざブリーフィングする、などという伝達は無い。毎朝起床ラッパ30分後にあるからだ。
「なんか色々忙しいから今日は早いんだって」
手慰みか、右手で口許に手を添えたジゼルが眉を顰める。
「あと15分後くらいだから早くしてね」
「15分て早……」
よほど急ぎなのか―――それにしても急なことだ。といっても、何か持って行くものがあるわけでもないのであれば既に準備は整っていた。一応ジゼルに確認を取りつつ、部屋に戻
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