暁 〜小説投稿サイト〜
機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
7話
[4/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
人が探し物は飲み物らしい。身を起こした攸人がそのブツを握った手をずいと差し出して、クレイの頬に押し付ける。夜ということもあって、何が入っているのかを窺い知ることはできなかったが、頬に感じる冷たさと水滴の感触はなるほど買ったばかりらしい。身体を起こして、クレイは攸人からそれを受け取った。
 350mlの紙パック入りだ、と知ったのは獲物を受け取った時の質感だが、クレイはいささかその重さに首を傾げた。やたらとずっしり重いそれを不審に思い、BDUのポケットからペンライトを取り出す。ふにふにとした触感のボタンを押し込むと、白光が広がった。
「『栄養補給! スッキリ炭酸グリーンティー』……?」
 怪訝な面持ちのまま、紙パックに記されていたその長々しく実に愉快な字面を読み上げた。緑色の融解しかけたゲル状生物が泡を吹いているというグロテスクな表紙のソレに、顔を引きつらせる。
「エドワーズ限定品! 面白そうじゃん」
 ペンライトの光を受けた攸人の顔は、今は明瞭に見えた。
 至極楽しそうな、少年のような笑みである。そして、この攸人少年はおもむろにもう1つのその獲物を取り出した。
 同じく、表示に描かれているのは満面の笑みのゲル状生物が踊る魔界の飲物―――同じものだ。クレイが顔を引きつらせているのを気にも留めず、攸人は迷いも淀みもなくストローを取り出し、白い丸の挿入口に突き立てた。
 白いストローに口をつけ、吸い上げかけ―――攸人は眉を顰める。
 本気で吸うこと十数秒、諦めた攸人はストローから口を離した。
「これ、吸ってるのに全然中身出てこないぞ」 
 目を丸くした攸人が紙パックを眼前に掲げる。どうやら中身は液体ではなくゲル状の何からしい―――あるいはドロドロすぎて吸えないとか。どちらにせよ、それをどうして紙パックに詰めたのだと商品開発責任者を弾劾裁判にかけたいところである。
 クレイは、複雑な心境でその紙パックに視線を落とした。飲むのに苦労すると分かっているのに、わざわざそれを飲むのは正直嫌なのだが……クレイは、横で必死にストローを吸う攸人を見やった。
 折角買ってきたものを、無碍にするのも悪い。悪意があったわけではないということは、たった今敵機と格闘戦を演じる昔なじみの男の姿を見ればわかるだけに、いらないとは言えなかった。
 飲むしかないか―――重たい腕を動かそうとした時、俄かに水気を含んだ破裂音が耳朶を打った。  
 ぎょっとして隣を見ると、紙パックの内容物をぶちまけ、顔面に浴びた攸人が身体を固まらせていた。
「お前は何をやってんだ」
「いや、押せば飲めるかなと思って押した」
 溜息を吐きながら、クレイは素早くハンカチを取り出した。支給品の、迷彩柄のその布きれを渡す。攸人はあまりハンカチを持ち歩かない男だ、と十分に理解している。サンキュー
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ