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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
6話
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 全天(オール)周囲(ビュー)モニター式のコクピットは、文字通りコクピットの全方位にモニターを配置し、視認性を少しでも向上させようと言う意図を持つ管制ユニットである。メリットの多いコクピット様式で、79年代のRX-78NT-1《アレックス》や、RX-78GP03《ステイメン》などに試験的に搭載され、有用性が認められたたことがきっかけとなり、第2世代MSの水準の指標となった優秀な装備である―――の、だが。
 「《百式改》とかに乗った時も思ったけど」手すりを手で撫でながら、眼前で口を開けるコクピットに呆れを含んだ視線を投げる。「―――重力下でこれ乗るの大変なんだよな」
 《ガンダムMk-X》の特異な顔を見上げると、ノーマルスーツに身を包んだクレイは気の抜けた声を上げた。
 ガントリーの前にかかったキャットウォークには、クレイの他に、整備用のユニフォームを着込んだ金髪の青年が1人居た。「まぁ確かに乗りづらいよな」と柵に寄りかかりながら賛同するヴィセンテ・グレイ軍曹は、クレイとジゼルの《ガンダムMk-X》の機付き長を務める男だ。フランクさと下品さが眩しいアメリカ大陸生まれの青年は、クレイと同い年という若さながら整備士として卓越した技量を持つ。別機種同時運用という悪手な上に、オーガスタ研究所独自開発機たる《ガンダムMk-X》の整備ノウハウなどありはしない。その上、準サイコミュシステム―――いわゆるインコムシステムと呼ばれるサイコミュデバイス搭載機と、性能はともかく整備士への負担は馬鹿にならない。
 そんな厄介者を嬉々として整備するヴィセンテを見る限り、腕に心配はないと見ていい。横目で一瞥すれば、《ガンダムMk-V》を見上げるヴィセンテの鼻筋の通った表情には晴れがましさすら感じる。
 厄介であるが故に―――という、ことなのだろう。視線を《ガンダムMk-V》に戻せば、天井から照らされる人工の光を受ける漆黒が艶やかに反照していた。
「今回は陸戦想定だからインコムは無しだろうが……ま、お前の腕なら大丈夫だろ」
 困惑顔のクレイにヴィセンテが歯をのぞかせる。
「見てきたようなことを言いますね?」
「だって教導隊と試験部隊を混ぜた部隊の人間だぜ?」ヴィセンテの左腕がクレイの背中を叩く。「 腕は良くて当たり前だろう?」
 人のよさそうな笑みは、どこかとある専任少尉の一人と、攸人のそれに似ていた。気恥ずかしさも覚えながら、そりゃ確かにと納得したように肩を落とした。
「じゃ、頼んだぜ」
 気さくに右手を上げて手を振るヴィセンテに、クレイも親指を立てた。解放されたコクピットハッチから内部に潜り込み、しばし間抜けそうに口を開けるコクピットハッチを眺める。
 全天周囲モニターはシートに座りづらい―――《NT-1》のテストパイロットが、雑誌のインタビューに応じた時に言
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