6話
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イという男は、出会って数分しかも出会った時間も数分というだけの男である。されど、確実にクレイはこの男の腕を認識した。
《リゼル》のデュアルアイが悪戯っぽく笑う―――身構えたクレイは、次の瞬間ぎょっとした。
バーニアを爆発させると同時にビームサーベルを強引に切り上げる。不意の一撃に突き飛ばされる形になった《Mk-V》がよろめく最中、その脇腹目がけ、白亜の《リゼル》が身体を捩り、回し蹴りを叩き込んだのだ。
コロニー内は中心部に行けば確かに重力が薄い。それでもクレイたちが現在斬り合っているのは地上から数十メートル―――無重力と言うにはあまりに重たい世界で、18m以上ある巨体に踵落としを見舞わせたのだ。
ある種神業にも等しいその一撃を、しかしクレイは礼賛を持って感嘆する暇など無かった。数百キロの鉄塊で殴打されたような激震に、悲鳴を上げる余裕すらない。
眼球が揺さぶられる―――流転する世界にあって、クレイは操縦桿を離す愚こそ犯かさなかったものの、それでも掴んでいるので精一杯だった。
白亜の《リゼル》がシールドの切っ先を―――ビームキャノンの照準を合わせる。
黒々した冷たい咆哮が迸る刹那―――ヴィルケイの《リゼル》が狼狽したのを、クレイは幻視て―――。
不意に戦場を犯したメガ粒子の光軸が《リゼル》の左腕を貫く。
幻影のメガ粒子が《リゼル》の装甲を融解し、血肉の内蔵フレームを蒸発させる。
(ありゃ……外しちゃった)
ジゼルの声が鼓膜をくすぐる。ほっとするのと同時に苦い気分にもなったが、それはそれだとすぐに思考を切り替えた。
(何発か援護したら餌を潰すから)
「了解―――手はず通り、感謝しますよ!」
(どういたしまして!)
吹き飛ばされた《リゼル》の腕部がクレイの脇を通り過ぎたところで、クレイは渦の中より脱した。完全に操縦桿を握り直し、その瞳に映る手負いの《リゼル》目がけてビームカノンの口を重ねる。
立て続けに襲い掛かる遠距離からの狙撃に気を取られながらも、それでも白亜の《リゼル》はクレイの挙動に反応してみせた。ロックオンと同時に砲撃したにもかかわらず、その《リゼル》は屹立したメガ粒子の閃光を紙一重で回避してみせる―――舌打ちがヘルメットの中で響く。
数度目の狙撃が《リゼル》を掠めたのが、合図だった。
未だ無傷の、攸人の《リゼル》が1秒とかからずに変形した。ムーバブルフレームが成すその瞬間的な可変と共に、大出力のバーニアを焚いた蒼白の《リゼル》が廃市街目がけて急降下―――同時に、ビームサーベルを構えた白亜の《リゼル》がクレイ目がけて猪突をしけた。
攸人の《リゼル》が狙うのは、ジゼルの《Mk-V》。狙撃に優れるジゼルを早めに叩き潰さなければ、苦戦は必至と見定め、無傷の攸人を行かせるのは合理である。
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