4話
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いったい何なんだ―――困惑していると、「ところでさぁ」と小さな女性がクレイを一瞥した。
「これが例のパイロット君かね?」
クレイとジゼルを交互に眺める。「ええ、そうよ」とジゼルが頷くと、クレイは敬礼をしてみせた。
「クレイ・ハイデガー少尉です」
「クレイ・ハイデガーね。あたしは紗夜・スタリオン伍長。よろしくさん」
紗夜も軽く敬礼すると、手を差し出した。
名前からして、攸人と同じ日系人だろうか。スタリオン、ということはハーフかクォーターか。それにしても肌が黒いなと思いながら、クレイも快く手を差し出し、握手に応じた。
「いやぁ、それにしても期待の新人君に会えて嬉しいよ」
手をぶんぶん上下に振りながら、妙に畏まった演技をする紗夜。「期待の?」と聞けば、元気よく頷いた。
「士官学校出たばっかりなのに教導隊からスカウト受ける攸人のがスゲーとは言われているけど、出たばっかりの新米なのに技能評価試験成績上位に入るってのもスゲーよ。なぁ?」
話を振られたジゼルも、うんうんと首を縦に振った。
技能評価試験―――年に2回行われる教導隊への適性試験で、実戦経験豊かなベテランや腕に覚えのあるエースが集い、鎬を削る試練の場。上位に食い込むだけでも、「至難の業」などという陳腐な表現では想像もつかない過酷さで知られる、そんな「戦場」で、クレイはその至難を成し遂げてみせたのである。
確か―――0088年に、自分と同じような経歴が居たはずだ。名前は確かジョッシュ・オフショー。名門オフショー出の秀才だったと記憶しているが、ペズンの反乱に与したらしい―――あとは言うまでもないことだ。
「自分の腕ですよ―――と言えたらいいですけどね。偶然ですよ」
自分の努力の賜物―――素直にそう言えるほど、彼は少年ではなかった。無論、努力しなかったわけではないが、この世界は努力『だけ』で達成できるほど単純な世界ではないのだ。
それでも悪い気はしなかったから、という心理作用もあっての発言だったこともあってか照れたような感じになった。
「謙遜て奴? 腕がいい奴ほどそういうもんさ」
お道化たように破顔する。フランクな女性、というところはジゼルに似ている。似たもの通し、仲がいいということか。
「ああそうそう、例の機体はもう塗装も終わって後は今日の戦闘を待つばかりだの」
ぽん、と手のひらを叩き、思い出したように言う。何故クレイがここを訪れたか―――見当をつけるのはたやすいことだった。
今クレイが立っているところからは、ガントリーの中にいるであろう例の機体を見ることはできない。
「早速お兄さんの嫁をご覧あれ」
「嫁?」
やけに芝居がかった大仰な身振りをし、紗夜が奥のガントリーに向かって歩き出す。ジゼルと顔を見合わせ、二人で紗夜の後について歩いていく。
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