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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
4話
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ね」と続けた。
「当分一緒に仕事する仲間なんだし、堅苦しいのはナシにしましょうよ?」
 らんらんとおさげが幽れた。
 少し、困った。クレイは、ハイスクール時代から人を呼ぶときはファミリーネームで呼ぶことが多く、ファーストネームで呼んだことはここ最近で無い。押しつけはしない、という言葉に甘えてもいいが……。
 せっかくの提案なのである。無碍に断るほどの物でもないと思ったクレイは、咳払いをした。
「じゃあお言葉に甘えて……オーウェンさんに、ジゼルさん?」
「呼び捨てでもいいが」
「いや、そこは癖というかなんというか…年上の人にはそうしちゃうんですよね」
 照れ笑いを浮かべた。
 心臓がざわついた。気恥ずかしさとでも言おうか、ぎこちない言い方になってしまったが、ジゼルは柔和な笑みと共に、こじんまりとした拍手をした。
「それじゃあ食べましょうか、クレイ?」
 珠のような声が大脳古皮質の奥に澱のように溜まる―――首を振ったクレイは、努めて眼下の料理に視線を下ろした。
「しかしサバの味噌煮も美味しいわよねぇ。そっちにすればよかったかな」
 棒状の肉塊―――カレーヴルストをフォークで突き刺しながら、羨望の眼差しをクレイの手元にやる。
 サバの味噌煮―――それこそ、クレイの頼んだ品物である。「好きなんですか」と言いながら、フォークをその切り身に突き刺し、丁寧に解体。一口大になったその身を、湯気だったご飯の上に乗せ、合わせて口に運んだ。
 ―――味噌の甘さと絶妙に絡むサバ本体の油加減と旨味。合成タンパクじゃないのか、と思わず顔を上げると、待ってましたとばかりにジゼルが笑みを浮かべる。
「ニューエドワーズの食堂のレベルはかなり高いって評判だからな」
「私なんてこのために666のスカウト了承したんだから」
 どちらかというとクールな印象だったオーウェンも、得意な顔だ。ジゼルは―――それはどうなんだと思いながら、何より驚いたのは合成タンパクで本物と同等の味にしていることだ。
 宇宙世紀0094年、食糧事情は困窮とまでいかずとも、けっして贅沢だとは言えないものだ。大豆やプランクトンから精製した合成タンパクから作り出された食べ物は、見た目こそ普通の肉や魚と変わらないが味は大きく劣る。クレイも士官学校時代はその洗礼を存分に味わったものだが―――同じ品とは思えない出来と言っていい。
「凄いな……」
 思わず呻きながら、次の塊を口に放り込む。同じ味が口を蹂躙した。
「この後は何かする予定はある?」
 次のソーセージを齧りながら、クレイの顔を覗き込む。
「一応、格納庫に行って自分の機体でも見てみようかなと」
 口に含んでいた食べ物を飲み込んでから、応えた。
 朝のブリーフィングでは、何に乗るかはまだ伝えられていない。攸人が乗る機体は、RGZ-
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