2話
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少年の頭蓋に蹲る脳髄。
それが見せたノスタルジックな追憶は、数年前のジュニア・ハイ・スクール生活の、ある日の出来事の再現であった。
教室の背後に設えられた掲示板。普段は誰も気にしない空間に、年若い生徒たちが群れている。そして少年も、遠巻きにその群衆が去るのを眺めていた。
数分。HRも始まりそうな時間の中で、人だかりが薄れていく―――彼は、唇をかみしめて、足を踏み出した。フローリングの上を歩くと、子気味良い木製の柔らかな音が耳朶に触れる。
少年は、疎らな人の中に、女の子を見つけた。栗色の髪の、可愛らしい女の子。誰もが振り向く容貌―――ではなかったが、童顔に大人しげな柔らかさを持つ少女。少年は、心臓を摘ままれるような緊張を持つ。握る手に、冷たい液の感触を持った。
彼女の背後と生徒の机の間を通り、少年は己の正面にその掲示板を見た。
なんの感情もなく、掲示板に貼られた白い紙には黒い染みが連なり、文字を作る。
校内模試の結果を知らせる紙だった。ある者は歓迎を持って、ある者は嫌悪を持って、ある者は興味を持つことすら億劫を持って、その面前に立つことを臨む。
少年は、従来2番目に属していた。
彼の視線は、まず左の方へと向かう。そちらは、下位の生徒の名前を表示する箇所である―――哀しい、少年の性。ざわざわと心臓を粟立てながら、しかし、彼の眼球は、己の期待不安に反して己の名前を中々捉えない。
心臓が強く波打つ。
喉が渇く。
手のひらを握る力が強くなる。
脳みそすら拍動しそうな錯覚に襲われながら、彼の視線は真中へ、そして右へと徐々に移動し―――。
少年は、全身の脱力と強ばりを同時に経験した。上位20番内―――19番目に、己の名前を見つけた。
500人を超す生徒の中で、その順位に居るということがどれほど素晴らしいことか―――未だ井の中しか、本当の意味で知らない少年にとっては、その場所を占めている筆舌に尽くしがたい栄誉なのだ。
少年は、されどその喜びを表出しなかった。理性という名の苗床に己を埋め、乾いたくちびるを舐めた少年は、平静を装って振り返った。ポケットにつっこんだ右手で太腿に爪を立てながら、
彼の眼が捉えたのは、より上位に位置する生徒を持て囃す群れ。あるいは、そもそも興味が無い人間たちの騒がしい声。咄嗟に視線を振った先には―――。
※
はっと気が付いたクレイ・ハイデガーは、視界に入った窮屈な天上―――シャトル機内の天上を目にすると。眉間に皺を寄せた。
厭な、思い出だ―――。
連絡船のシートに蹲りながら、クレイは手のひらで額に滲んだ汗を拭いて、そうして重たい息を吐く。
胆嚢からでも沁みだしてきたかのような重く濁った息。気だるげに腕に回した銀の時計に視線をやれば、2つの針はそろそろ到着時刻であ
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