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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-
1話
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ずっぽうで放たれた火箭は当たる素振りもなく、鋭利で無慈悲な牙に切り刻まれ、身もだえする《ジェガン》の四肢が食い荒らされ、戦闘能力を奪い去る。続いて、背面の《ネロ》を閃光が射す。一撃でコクピットを撃ち抜かれた《ネロ》のパイロットは何があったかすら理解できずに今生の世界から蒸発しただろう。無数の粒子ビームが屹立し、もう一機の《ネロ》も四肢を?がれ、頭部を撃ち抜かれ、人豚と化した。
 一瞬だった。残った2機の《ネロ》はその瞬間に戦意を喪失させたらしく、周囲を警戒しながら未だ「生きている」《ジェガン》の周囲を固めるようにバーニアを噴かした。
 ――――戦争において避けねばならないのは、戦闘行為である。装備の喪失や人員の喪失は、軍隊にとって忌避されるべき行為だ。台所事情が厳しいネオ・ジオンにとっては、それはより顕著になる。機体を動かすにしても消耗品は消費するわけだし、強化人間たるプルートに比べれば素質はすぐれないといっても、数少ない自然発生のニュ―タイプたるエイリィ喪失のリスクは避けたい。理性的な面でも、また情緒的な面でも。
 さらに言及するならば―――《ギラ・ドーガ》と、ある程度のパーツの互換性を持つ《ヤクト・ドーガ》はともかく、マクスウェルの《ドーベン・ウルフ》とプルートの《キュベレイ》は特殊な機体故に整備が大変なのだ。なるべく余計なことはしたくはなかった。
 言葉の用法が正しいかはともかく、現時点で連邦軍とネオ・ジオン軍の利害は一致しているのである。敵機がこれ以上の追撃をしてこないと見て取ると、マクスウェルは暗い色の《ドーベン・ウルフ》をAMBAC機動により機体を反転させ、バーニアを噴かした。
「こちらヴォルフ・リード、任務達成。帰投する」
 応答の通信はミノフスキー粒子の干渉を受け、聞き取りにくかったが、安堵の雰囲気は十分に窺い知れる。マクスウェルも一応の安心を感じながらも、僚機への無線を開く。立ち上がった通信ウィンドウ越しの二人の様子は、いつも通りのように見えた。
「辛くはないか」
 特に誰かに視線を合わせるでもなく、作業しながらぽつりと口にした。
 任務完了後に、マクスウェルはいつもこの言葉を二人にかけていた。人殺しが辛い―――確かに、慣れる行為ではないが、軍人なれば己を殺してそれを為さなければならない。されど、マクウェルの部下は―――普通の、人ではないのだ。有り体に言えば、人よりも何倍も感受性に富む少女たちは、それだけ人の死を機敏に、そして鋭利に感じすぎる。軍人だから我慢しろ、というのは、苔で蒸した価値観の押しつけそのものだ。もちろん、任務にとあらば我慢してくれとしか言えないところが、マクスウェルの―――ひいては、人間の無責任なのだ。
(あたしはいつも通りって感じ。元々才能ないし)
 ヘルメットを脱ぎ、その美しい稲穂の如き砂金の髪を
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