北の騎士の選択
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書棚三つとクローゼットが一つ、四角いテーブルに添えられた椅子が二脚、手持ちの燭台にベッドが二つと、その間に衝立があるだけ。部屋の左右に扉が一つずつあるが、恐らく浴室と執務室……だな。
窓も暖炉も無いのに息苦しさも寒さも感じないのは、ガラス張りの天井が妙に高いからか。
「此処でお待ちいただけますか? 直ぐに呼んで来ますから」
アーレストさんに椅子を勧められ、大人しく着席する。
直ぐに呼べるという事は、会わせたい者とは教会関係者なのか。宗教に携わる知人に心当りは無いのだが、はて?
静かに扉を閉めて出て行った……かと思えば、本当に直ぐ戻って来たらしい。凄まじい轟音を伴って廊下を走る気配がする。
何事かと腰を浮かせた瞬間、ダンッと扉が開かれて
「フィぶっ!!」
勢いでまた閉まった。
盛大に顔をぶつけた人物の潰れた悲鳴が……ああ。なるほど。
椅子から立ち上がってそっと扉を開けば、鼻血が流れる顔を押さえてひっくり返った真っ白な長衣の男性が一人。アーレストさんに負けずとも劣らない真っ直ぐ長い金髪を絨毯の上に散らして、若葉色の目を潤ませてる。
「落ち着きなさいと言ったでしょう、ソレスタ……」
廊下をゆっくりと歩いて来るアーレストさんが、呆れた溜め息を吐いて頭を掻いた。
「どぅっぶぇ! ぶぃぶぇぶぐぁ!」
「まずは鼻血を止めてからにしなさい。聞き取り難いったらありゃしない」
「ぶぅーっ!」
ガバッと立ち上がり、また廊下を戻って行ったかと思えば、シュバッと光の速さで扉の前に立った。鼻血の処置は完璧で、呼吸も全く乱れてない。
相変わらずの超人振り……さすがです。
「元気だったか、フィレス!」
片手を上げ、爽やかな青年らしい笑顔を見せてくれたこの方こそ
「お久しぶりです……師範」
私に剣術と生き方を伝授してくださった恩師・ソレスタ様だ。
「いやぁー、ビックリしたぞ! アーレストがまさかフィレスを連れて来るとは思わなかったからさぁ。なになに? 休暇中? 自宅放置して来たワケ?」
「あのねソレスタ。同じ神父でも、一応こっちが世話役なのよ? 様を付けなさい。様を」
「良いじゃないか。年齢は俺のほうが上なんだから」
「年齢よりも勤続年数や立場が物を言う世界なのよ。此処は。」
「せっまいなぁー。そんなんじゃ大きくなれないぞアーレスト……って、もう十分大きいか。はっはっはっ」
「アンタね……」
テーブルの角に座って、椅子に腰掛けてるアーレストさんの背中をバシバシと叩く。
懐かしいな。私もよくあんな風に背中を叩かれたものだ。
顔や体付きは中肉中背の……其処らにいる三十代の青年そのものだが、腕力は並じゃない。うっかり力を抜いてる時にあれをやられると、本気で一瞬息が止まる
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