暁 〜小説投稿サイト〜
White Clover
放浪剣士
魔女の血を継ぐものV
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
足取りが早くなる。
近くまで行くと、二人は向かい合い何かを話しているようだった。

残念ながら、雨音でなにを話しているかまでは聞き取れない。

もう少し近付いてみよう。

一歩を踏み出したその時だった。

激しい雷鳴が鳴り響いたかと思うと、そこにいた人影は一つになっていた。

そう…人影は。

みるみる筋肉の膨張を始める片方の人影。
その影は人らしさを脱ぎ去り、異形へと姿を変える。

雷光に刹那写し出されるその姿。

鋭い爪と牙。
体格は人影と比べふたまわりは巨大化し、だらりとその両の腕をたらす。

人狼。

始めて見た。
文献や噂でしか見たことがない希少な生き物だった。

本当に実在していたとは―――。

ある種の感動を覚えたのも束の間。
私はすぐに我にかえり確認する。

まさか―――。

どちらだ―――。

それは、次の雷光で明らかになった。

あの母親だ。

対面する人影は彼女。
だとすれば、あの人狼はほぼ間違いなかった。

私は考えるよりも先に剣を引き抜き彼女の横へと立っていた。

「ついてくるだけじゃなく、首まで突っ込んでくるのね」

私のほうを見もせず彼女は言う。

しかしそれは私も同じだった。
目の前には化物。
視線をそらすわけにはいかない。

「退いてなさい。人間のあなたが相手をして良い存在ではないわ」

と、彼女がゆるりと人狼へと掌をかざすと、あのときと同じまばゆい閃光と熱風が私を襲う。

だが、あの時とは違う。
私はその正体をはっきりとこの目で確認した。

彼女の掌から人狼へと、真っ直ぐに放たれる炎の渦。
この雨のなかでも衰えはしない…いや、むしろ降り注ぐ雨をも蒸発させてしまうほどの高熱だった。

しかし、それでも人狼を焼くにはいたらず。
身にまとわりつく炎を腕で一払いし消し去ると、咆哮をあげ鋭い爪で私たちへと襲いかかってきた。

咄嗟に剣で受け止めようと身構える。

が、しかし―――。

脇腹に鉄球がぶつかったかのような重い衝撃を受け、私の体は吹き飛び地面を転がっていた。

彼女だ。

足で私を吹き飛ばし、自らは人狼の一撃をひらりとかわしていたのだ。

「本当に馬鹿な奴ね。ただの人間ごときが受け止められると思っているの?」

庇ってくれたのか―――?

剣を支えに身体を起こし、再び人狼に向かって剣を構え直す。

「残念だけど、今ここであなたに死なれては困るのよ」

どういう意味だろうか?
いや、今はそんな事はどうでも良い。

奴をどう倒すか、それが最優先だ。

作戦を整える暇もなく、人狼は二撃目、三撃目と攻撃を繰り出してくる。

受け止めることはできない。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ