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逆さの砂時計
想いの交差点
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 だからアーレストもプリシラも、彼を構って構って構い倒した。人間は敵じゃないんだと信じて欲しくて、鬱陶しがられても逃げられても、ひたすらに追い掛け回した。
 友人だと認めてくれた時の喜びは、今もプリシラの内にある。
 「でも、もう大丈夫ですわね。あの子は強くなりましたわ」
 「男の子は護りたいものを見付けたら成長が早いからね。……寂しいかい?」
 「まさか。クロちゃんはちょっとお出掛けしただけですもの。「行ってきます」の後は「ただいま」を言わなきゃいけない義務がありますのよ。破ったら今度は本当に花嫁衣装でも用意しますわ。とびっきりのフリル付きで」
 くるんと大司教に向き直って高らかに宣言するプリシラは、やはり笑っている。
 「とても嫌がるだろうね」
 「それが面白いんですのよ。いちいち似合う所が微妙に女の自尊心を傷付けたりするのですけど」
 「君と同期じゃなくて良かったよ。近くに居たら、君という人間は見抜けないだろうから」
 大司教は、くすくすと肩を揺らして微笑んだ。
 「私は昔も今も、自分勝手で我が儘なお嬢様ですわ。これから先もずっと。……それより、状況に変化はありまして?」
 ころころと楽しそうに笑っていた表情が一転。次期大司教としての威厳と品格を備えた真剣なものに変わった。大司教も彼女の言葉を拾って、眉間に皺を寄せる。
 「正直、厳しいね。混乱は深まっているようだ。現地の信徒には、布教活動を慎むべしと伝えているらしい」
 「……そうするしかないでしょうね。下手に動けば異教徒達を刺激しかねませんもの。ただでさえ上層が落ち着かない状況ですのに、下層までが騒動を起こしたら、宗教戦争の切っ掛けを作ってしまう。この国はアリア信仰が中枢と繋がっているから良いものの、そうでない国では否定派に虐殺されかねませんわ」
 キリッと親指の爪を噛んで俯くプリシラに、大司教も深く息を吐き出した。
 「かと言って、事が事だけに我々としても放置する訳にはいかない。事実確認を急げと上からも指示されているし、私も大司教として召集されてしまったし……困ったものだねぇ……」
 「猊下の召集? こんな時に重役が一国集中なんて!」
 「こんな時だからこそだよ。情報共有と検討は必要だ。どの国にも一応大司教候補は居るし……大変だと思うけど、私が留守の間は君に任せるよ、プリシラ次期大司教」
 「……はい。心得ておりますわ」
 聖職者らしからぬ装いながらも背筋を伸ばし、腰を折って、上位に立つ敬愛する者への礼を執った。
 「どうぞ、ご無事で」
 「君も。……クロスツェルにも。女神アリアの御加護があらんことを」
 窓から背を離し、プリシラが下げた頭に手を翳す。やがて顔を上げた彼女と信頼し合った視線を交わし、互いに微笑んだ。
 「ところで、どうして踊り子だった
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