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逆さの砂時計
想いの交差点
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で」
 「そう……」
 薄く紅を塗った唇をふわりと綻ばせ、いつの間にか大きくなった友人の胸に、とん と頭で寄り掛かる。
 「行ってらっしゃい。貴方に、女神アリアの祝福が舞い降りますように」
 アーレストにされたように……と言っても頬擦りはしないが、小さな頭を抱えて軽く撫でてから
 「行ってきます」
 与えられた荷物を手に、クロスツェルは執務室を……教会を出て行く。
 旅立つ者の後ろ姿を笑顔で見送ったプリシラは、バルコニーに足を運んで「んー……っ」と全身を伸ばした。着崩した長衣の裾が風に揺れる。
 「彼の誠意を真の物であると認めていただき、感謝しますわ。大司教様」
 青い空を見上げながら、カーテンに隠れた大きな窓の外側に居る男性に笑う。
 真っ白な長衣をキチッと着こなした男性は、穏やかな表情で腕を組み、窓に背中を預けて立っている。
 「あれだけ嫌がる姿を一週間も公に見せられてはね。あの子は相変わらず、君の趣味本位だと思っているようだけど……悪者のままで良いのかな?」
 「あら。いやですわ、大司教様。私は最初から最後まで、自分が面白いと思う事しかしてませんのよ?」
 ただ、我が儘に振り回された人間は少ぉし可哀想に見えるかも知れませんけど。と、振り返った顔が嬉しそうに笑う。
 「ふふ……君は本当にあの子が好きだね」
 地方の小さな教区とはいえ、神父が務めを放棄するなど本来あってはならない。当然、懲罰は受けて然るべきだ。クロスツェルの場合、教会の鍵を総て開放したまま放置するという悪質さも問題視され、破門も検討されていた。
 それを水際で止めていたのは他でもない、プリシラだ。
 過去のクロスツェルの功績と敬虔さを主張し、確定している次期大司教の立場を活用して、反発が強くならないようにそれとなく彼を擁護し続けた。その上での、民衆と信徒を前にした女装被害騒動。
 多くの信徒は、昔から奇行ばかりが目立つ次期大司教様の被害者に好意的だ。彼女に大人しく従うとはつまり、信徒の同情心を買う事を意味している。本人が一番嫌がる的確な弱点を突いたその行い自体が、既に懲罰と同等の扱いなのだ。
 クロスツェルが一週間耐え抜いた結果、彼は大司教の名の下に赦された。
 餞別も許可も、大司教が有望な彼に再修行を命じた結果用意された物だとは……クロスツェルだけが知らない。
 「放っておけないだけですわ。あの子、孤児として教会に入った当初から既に半分死んでいましたもの。アリア様への信仰心が無ければ、とっくに自殺していたでしょう」
 全身傷だらけで、今は綺麗な黒髪もボサボサで。その鋭い金の目は、どれだけ酷い目に遭わされたのか……人間なんて信じていなかった。ただ、アリアだけを信じていた。アリアに仕える為だけに生きている……そんな子供だったのだ。クロスツェルは。

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