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黒き刃は妖精と共に
【白竜編】 噂
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まだ今回の噂が真実とも虚偽ともつかない状況ではあるが、見なかったふり聞かなかったふりをしなくていい、さらにはそれを追うことができることがこれほど嬉しいとは思わなかった。

「ふふ……」

 自然と笑みがこぼれた。
 ずっと、ドラゴンスレイヤーは自分だけだと思っていた日々が終わった。グランディーネ、自分の母親の手がかりはまだ見つかっていないけど……一人きりじゃない、それが嬉しくて。
 そのとき。

「あの……」
「え?」

 曇天を眺めながらぼーっと空を眺めていたからだろうか、視界の外から響いた声に必要以上に驚いて湯を跳ね上げながらウェンディは声のした方向へ向き直った。
 そこにいたのは二十歳を迎えたかどうかの若い女性だった。
 ウェンディは、観光に来ていた人間が湯船でだらんとしている自分を見て心配で声をかけたのかと思った。
 しかしよく見れば女性は数時間前の情報収集のさい見かけたあの生気のないやつれた目をしていて、ササナキの住人だとウェンディでもわかった。
 ここに住む人間全員が常に湯屋で働き客を向かえる側にだけ立っているわけではない、当然ササナキの住人がササナキの温泉を利用することもあるだろう。

「あなた、もしかして魔導師ギルドの方ですか?」

 だが、続いた言葉にウェンディは背筋が凍るような感覚に襲われた。
 うっかりしていた、今女性が入ってきた出入り口からは裸であるウェンディの右肩にあるギルドエンブレムが丸見えになっていた。
 魔導師の証を隠していたのはあくまで念のためであり、万が一のことを考えてとクライスが提案したことだ。
 だが、いくらギルドエンブレムが見えたとはいえそれをわざわざ指摘する理由が一般人にあるだろうか。
 魔導師は確かに珍しい存在ではあったが、わざわざ声をかけて指摘されるほどのものではない。
 ウェンディの見た目が幼いためという可能性もあったが、ほかならぬクライスの指摘があった後。悪い方向に考えてしまうのは仕方がなかった。

「そう、なんですね?」
「…………!」

 ウェンディが答えずにいると、女性は何を考えてか若干早足になってこちらに近づいてきた。
 どうしよう--ウェンディは咄嗟に身構えた。
 大声で呼べば、もしかしたらクライスが気づいてこちらに駆けつけてくれるかもしれない。女湯だとか裸だとかそんなことはこの際関係ないだろう。
 だが、本当にこの女性が自分をどうこうするかどうかの確証はない。勘違いだった場合問題になるだろう。
 かといって何かされてから助けを呼べる確証もまた無い。
 思考がぐるぐると頭を駆け巡っている間に、女性はすでにウェンディの目の前にいた。
 そして、エンブレムのあるウェンディの右手を両手で包むように取る。
 確証は無い、けれどこのまま
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