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黒き刃は妖精と共に
【白竜編】 噂
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いる人物、シュヴィ・クライスが平然と男湯の暖簾(のれん)を潜っていってしまったので戻るわけにも行かなかったのだ。
 普段であれば友人であるシャルルが先導してくれるのだが、彼女は人間ではないため浴場へ来ることを許可されず今頃部屋に備え付けられた簡易浴場で入浴しているはずだ。
 結果的に一人きりで広々とした温泉に一人で入ることになってしまったウェンディ。広々とした浴場は人がいないと少々恐ろしく感じ、早々と体を洗い終えると比較的コンパクトにまとまっている露天風呂へと足を運んだのだ。
 そんな経緯はあったが、一度湯につかってしまえばそんなことはどこかへとんでいってしまった。
 湯船の縁に頭を乗せ、空を見上げる。あいにくの曇天であったが、ここまで広い湯船につかることは初めてなだけに気にはならなかった。

「シャルルには悪いことしちゃったなぁ……」

 部屋を確認した限りではそれなりにいい作りではあったが、やはりこの広々とした浴場に比べてしまうと見劣りしてしまう。
 ここへ来た理由はあくまでドラゴンの噂の真相を確かめるためであり、観光ではなかったことや来ることが急に決まったためそこまで気を回していなかったのだ。

「いままでこんなことなかったもんね……こんな風に噂をおってこんなところまで、なんて……」

 普段ならほぼ必ず横にいるシャルルがいない完全に一人であるこの状況に、ふつふつと最近の出来事が頭の中を巡り始める。
 今までなら、多分今回のような噂は唇を噛んで聞き流すしかなかっただろう。
 けれど、今ウェンディはここにいる。
 なぜなら今同じく温泉に入っているであろう人物、シュヴィ・クライスとの出会いがあったからだ。
 一週間前森の中で自分の命を救ってくれた、そして自分と同じくドラゴンに育てられたというドラゴンスレイヤーの青年。
 骨格を刃に変化させたり、金属すら弾くような肉体強化をほどこしたり、明らかに通常の魔法では実現し得ない魔法を実演され自分がドラゴンスレイヤーだと名乗った彼との出会いによる興奮は今でも思い出せる。
 残念ながら彼も親であるドラゴンの行方を知らず、それどころか記憶すら失っていると聞いたときは正直落胆してしまった。
 考え直せば唯一の記憶であるドラゴンが嘘扱いされる世の中においてそれはどれだけ不安になることだったかは想像に難くない。そんな彼にがっかりするというのは失礼なことだ。
 しかし、その出会いはそれだけで終わらなかった。
 なぜなら彼がウェンディの所属するギルド化猫の宿(ケット・シェルター)に所属し、さらには自分の親探しを手伝ってくれるといってくれたのだ。
 彼はウェンディの存在が自分に希望を与えてくれた、だから恩返しがしたいといっていた。
 そして、早速こんな場所まで着いて来てくれた。
 
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