【白竜編】 噂
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るんだな……。
◆◇◆◇◆
ササナキに複数ある宿の一つ【紅葉】。東方の文化を多数取り込んだその宿は、ササナキを知る者に特に好まれる宿だった。
木材を中心に使用し建築された建物は、建てられてからそれなりの年月がたった今でも森の中にいるような木々の香りが残り、宿の中を歩くだけで心身の疲れが取れるようなリラックスできる空間になっている。
その効果が特に顕著なのは、当然というべきか天然の物をそのまま使用している温泉がある入浴場だ。サウナと何の変哲もない湯船だけという非常にシンプルな作りでありながら人気は高い。
にもかかわらず、今現在そこに人の影はほぼない。
開放されていないわけではなく、宿泊客がいないというわけでもない。単純に入浴には少し早い時間であることと、もう一つとある噂が原因で宿泊客の数が少ないのが原因となっていた。
そんな中、ガラスを一枚隔てた外。所謂露天風呂のある場所に一人の少女がいた。
一人で温泉にいるには少々幼すぎるようにも見えたが、それは右肩に刻まれた猫のようなマーク、ギルドに所属する者の証であるギルドエンブレムを見れば大抵の人間が指摘することをやめるだろう。
そんな少女は藍色の長髪をタオルでまとめ、幼い四肢を手持ちのタオルで隠しながら少々おどおどした様子で、そこまで熱くないはずの湯船に片足をゆっくりと浸けようとしている。
「いたっ!」
しかし、その努力は報われなかったらしい。
湯船に浸けた足にピリッとした痛みが走り、ウェンディ・マーベルは小さな悲鳴をあげた。
それはここに来る道中に転んだときすりむいてしまった膝の怪我からきたもので、湯船に完全に体を沈めてなお地味な痛みは続き、せっかくの温泉をすっきりと楽しめないわが身を少しだけ恨めしく感じえしまうのは仕方の無いことだろう。
「はぁー……気持ちいい……」
とはいえ、深く息を吐きながら全身を弛緩させ、気兼ねなく裸体を湯船の中で広げても誰からも文句を言われない、いわば独り占めの状況はなかなか好ましいものだった。
今の時刻は十九時を過ぎたあたりだろうか。普段の生活リズムから考えれば入浴には少々早い時間である。
だが、チェックインしてまず何をするかと話題になったところ、先に入浴して体の汚れや疲れを落としてから考えようという話になったのだ。
ウェンディとしても確かに道中の山道はきついものがあり、普段から体を動かすことが多いとはいえ流石に怪我に関係なく疲労で足が少し痛むほどだったのでゆっくり湯につかって体を休めるというのは魅力的で、反論する必要もなかったので二つ返事で了承したのだ。
浴場に付くと案の定というべきか人はおらず、一瞬まだ入浴できないのではないかと焦ったが宿の人間が大丈夫だと言っていたのと、ここまで一緒に訪れて
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