第一章
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今川風流
今川義元は常に顔を白粉で化粧していた、眉は丸く剃りそのうえでお歯黒までしている。
髷も公家髷だ、着ている服も普段からそうだ。
その義元に対してだ、都から落ちて来た公家達は口々に言った。
「いや、今川殿はまことにでおじゃる」
「都のことがわかっておられるでおじゃるな」
「そのお姿といい」
「喋り方といい」
「風流を解しておられるし」
「和歌も蹴鞠もお見事でおじゃる」
「いや、麿なぞまだまだでおじゃる」
義元はその公家達に笑って答えた。
「都の、公卿の方々にはでおじゃる」
「わかっておられぬと」
「そう言われるでおじゃるか」
「古書もよく読まれているでおじゃるが」
「それでも」
「まだまだでおじゃるよ」
それでもと言う義元であった、だが。
彼はとかく都の文化に憧れそれに親しんでいた。それで和歌や古典等の教養にも見事なものがあった。
その彼にだ、今川家の知恵袋であり彼の学問や政、兵法はおろかあらゆることの師匠である太原雪斎は言った。
「殿ならば」
「都に行ってでおじゃるな」
「はい、立派にお役目が務まりますな」
こう言うのだった。
「公方様のお傍で」
「都に上がったならばでおじゃる」
義元も雪斎に自身の思うこところを語った。
「政だけでは駄目でおじゃるからな」
「はい、公卿の方々とのお付き合いもありますので」
朝廷にいる彼等とのだ。
「ですから」
「それで、でおじゃる」
「はい、殿も今から」
「幸いこの駿府には公卿の方々が多く来られているでおじゃる」
そのこともありというのだ。
「色々と教えてもらえるでおじゃる」
「やはり雅についてはです」
「公卿の方々でおじゃるな」
「古今集や源氏を読まれることもですが」
「実際にお会いしてこそでおじゃるな」
「はい」
その通りだとだ、雪斎も義元に答えた。
「ですからこれからも」
「雅についてもでおじゃるな」
「真の方となられる様」
「わかっているでおじゃる」
義元はそのお歯黒の歯で笑って応えた。
「そうしていくでおじゃる」
「では」
「うむ、政と戦にも励むと共に」
「雅につきましても」
二人でこう話すのだった、とかく義元は都のことに憧れ公家の姿になりだ。
その雅を学んでいた、その中で。
時は戦国の世だ、戦が尽きない。それは今川家もまた同じで度々戦をした。その戦の中でだ。
義元は自ら出陣して戦っていた、だがその中で。
家臣の一人が失態を犯した、それでだった。
本陣において義元が沙汰を行うことになった、だが。
その中でだ、家臣達は言うのだった。
「この失態はのう」
「ちとな」
「許されるものではない」
「これは殿
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