暁 〜小説投稿サイト〜
鬼山県
第六章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後
「首を武田家の下に」
「・・・・・・わかり申した」
 家臣達は苦い声で答えた、山県の心がわかったが故に。
 それでだ、それぞれ小柄を抜いた。その彼等を見てだった。
 山県は安堵した様に微笑んでだった、最後の力を振り絞り。
 手を動かし采配を口元にやり。
 口に咥えた、そのうえで目を見開き柵の向こうの織田の軍勢を睨み据えたままであった。山県はこと切れた。
 その彼をだ、馬から下ろしてだった。家臣達は彼の首を切り。
 武田の本陣に持って行った、そのうえで勝頼に彼の首を見せて言った。
「この通りです」
「我等が殿は討ち死になされました」
「しかし御首を渡さぬと仰り」
「我等に首をと」
「左様か」
 勝頼は山県の采配を咥えたままの首を見つつ彼等の言葉を聞き。
 そうしてだ、戦を決意した時以上の苦い顔でだった。
 彼等にだ、こう告げたのだった。
「その首甲斐にまで持って帰り弔おう」
「有り難きお言葉」
「源四郎、今までよく働いてくれた」
 涙は流さない、だがだった。
 それでもだ、山県の顔をこれ以上はないまでに苦い顔で見つつだった。 
 その首を甲斐にまで持って帰らせた、そうして言うのだった。
「全てはわしの咎じゃ」
 戦になったこと、山県を死なせたこともだった。そう話してだった。本陣で自らが率いる軍勢が崩れていく様を見るのだった。
 長篠の戦いにおいて武田は多くの家臣と兵を失った、惨敗と言ってよかった。その惨敗の中で死んだ家臣達の中に山県もいた。
 信長は討ち取った武田の家臣達の筆頭に山形を書かせた、そのうえで家康と己の家臣達に強い声で言った。
「武田の多くの将帥を討ち取ったが」
「その中でもですな」
「山県を討ち取ったことが最も大きい」
 こう言うのだった。
「よく討ち取った」
「ですな」
 家康は信長のその言葉に頷いて答えた。
「鬼山県を」
「そうじゃ、これは大きい」
 非常にというのだ。
「武田に勝った」
「しかしあれ程強き者」
 それ故にというのだった、家康はここで。
「その心は受け継ぎたいと思いまする」
「だからじゃな」
「はい、それ故に」
 井伊の方を見て信長に答えた。
「虎松にです」
「赤備えをさせておるな」
「あの強さを当家にも備えんと思い」
「よきことじゃ、まさに鬼じゃった」
 信長も山県のその強さを讃えることに憚らなかった。
「その鬼のことはわしも忘れぬ」
「それがしも」
 家康は信長の言葉に強く頷いた、彼は特にだった。三方ヶ原のことを忘れられぬが故に。それでだった。
 山県昌景の強さは天下に知られていた、それはその時代だけでなく今も伝えられている。井伊家の赤備えも然りであり武田家きっての名将、名臣としてその名を残している。鬼の如き武勇を以て。
[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ