第三章
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「そう思うが」
「それが出来ぬ様になっている」
「このままではな」
「織田家が出て」
「家の危機にならねばよいが」
彼等は危ういものを感じていた、山県は特に。だがその危惧も虚しくだ。武田家は遂に織田家の大軍と向かい合うことになった。
勝頼は本陣においてだ、苦い顔で断を下した。
「戦じゃ」
「しかし殿」
「それは」
すぐにだ、山県と馬場は勝頼を止めようと動いた。
「なりませぬ」
「今は」
「敵は織田、徳川合わせて三万八千」
「我々は一万五千です」
「兵の数が違い過ぎます」
「あまりにも」
それ故にというのだ。
「ここは退きましょう」
「相手は既に柵を設け応じる構えです」
「鉄砲も多くあります」
「あれを使われる」
「わかっておる、全てな」
勝頼はその顔をにがいものにさせたまま答えた。
「敵の兵の数、柵、鉄砲」
「しかも敵は川を前にしています」
「何もかも我等にとって不利」
「戦になっては」
「危ういのはこちらです」
「しかしじゃ」
ここで勝頼が山県に言うこととは。
「後ろがな」
「攻められているからですか」
「後ろの砦が攻め落とされた」
足掛りとすべきその場所がとだ、こう答えたのである。
「あそこがあればわしも退いたが」
「しかし今は」
「それが出来なくなった、こうなれば」
それこそというのだ。
「戦い勝つしかない」
「ですか」
「御主には先陣を命じる」
山県にこう告げた。
「頼んだぞ」
「わかりました」
山県は頷くしかなかった、主の決意が揺らがないと察してだ。そしてだった。
自らの軍勢の場所に戻った、そこで周りの者達に言った。
「何かあればな」
「あの、殿それは」
「その様なことを仰ると」
「戦は何かあるかわからん」
言葉に出せばとだ、言霊を恐る自身の家臣達に前を見据えつつ答えた。
「だからじゃ」
「その時は」
「我等が」
「わしの首は敵には渡すな」
決して、というのだ。
「よいな」
「畏まりました」
「それでは」
「その時は」
「我等が」
「これまで多くの戦をしてきたが」
その中には村上義清や上杉謙信との戦もあった、何度も死線をかいくぐってきた。だがそのどの戦よりもというのだ。
「この度の戦はな」
「違いますか」
「今度ばかりは」
「危うい、いや言うまい」
夕刻が近付く中での言葉だった、夕陽は次第に沈もうとしていた。山県はそれが最後に見る夕陽だとわかっていた。
戦は次の日はじまった、山県は勝頼の言葉に従い先陣を務めた。自ら兵を率い柵の向こうの織田軍に突き進んだ。
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