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珠瀬鎮守府
響ノ章
昏睡
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室を抜けて通路へ出る。提督は、壁に寄りかかって立っていた。
「提督、もう上がるよ。あと少し待っててね」
 提督は返事をしなかった。長くなってしまったので、伊勢のように機嫌が悪いのかと思ってそのまま二人の元へ戻る。姫に予め渡しておいた新調した服に着替えている間、手持ち無沙汰に待つ。伊勢と言えば先程自ら濡れてしまったので頭を拭いていた。この後で伊勢と私は風呂に入る予定なので、特に困ったことはないだろう。後は姫を部屋まで連れて行って任務は終わり。三日月の監視は日向達の役目だ。
「行こうか」
 着替え終わった姫が言う。服は街まで買いに行けなかった為、空母用の和服だ。姫の黒い長髪にあっているのだから何とも不思議な感じがする。
「響?」
「うん、行こうか」
 姫に返答して、彼女達の後に続く。廊下に出たところで提督が居た。提督は先程見た時と、一寸も位置が変わっていなかった。そのことに僅かに疑問が浮かんだ。
「提督、行きましょう」
 伊勢の言葉に返答はない。そうして、動こうとする気配すら見えなかった。
「提督?」
「おい」
 姫が提督の肩を揺らす。提督はそれで膝から崩れ落ちた。立っていたのではない、ただ単に寄りかかっていただけだったのだ。姫は倒れかかる提督を何とか抱きとめる。頭部を床に叩きつける自体はそれで何とか回避した。姫はゆっくりと提督を床に横たえる。瞼は落ち、意識はないようだった。
「おい、おい」
 姫が肩を揺らすが反応を返さない。姫は言葉を掛けるのをやめ提督の頬を平手打ちした。独特の音に、不謹慎にも一瞬小気味良い音と思ってしまった。
「ちょっと」
 焦る伊勢を振り返らず、姫は間を置いてもう一度頬を叩いた。よく見れば提督はそれに対して顔に手を持ってきた。
「ふむ、痛みに反応するが、先倒れるときには殆ど反応がなかった。昏睡しているのやもしれぬ。こいつも病院に運んでやれ」
 私はまた返事をして病院へ向け駆け出す。なんでこう、戦闘もないのに病院送りが続出するのだろうか。
「何なのよもー!」
 後ろ手に伊勢の叫び声を聞きながら、私は病院へと急いだ。
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