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珠瀬鎮守府
響ノ章
昏睡
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この人格は嘗ての記憶の一部と。その手は確かに血に濡れているかもしれないけど、その人格は嘗ての仲間、今はそう思って接しているわ。だから、この考えが変わらないような身の振り方をして欲しいわね」
「では、他の深海棲鬼はどうするのだ」
「……殺すわよ。その手が新たな血を、同胞を求めるならば、私はその鬼を殺す」
「害意、それによってお前は人と鬼を分けるのか」
「もっと単純よ。私は私に優しい人には善意で応え、私に害を齎す者には砲を向ける。それだけ」
 伊勢の言葉に納得したのか、姫は一度口を閉ざした。
「貴方はどうなの?」
「私も、そういう事だ。害意を向けられなければどうもない」
「そ」
 伊勢は素っ気のない返事を返す。
「お前はどうなのだ、響」
 突然に話を振られる。私は、私なりの考えを話した。
「恨む、か。私はそもそも深海棲鬼を恨んだことはないね」
「どういう事だ」
 意味を理解しかねるのか、姫は尋ねる。
「私は、沢山の仲間を失った。きっと、この鎮守府の中でもそれは一入(ひとしお)だろう。けどね、私は恨まなかったよ。戦い始めた頃から知っていたからね、貴方達が嘗ての仲間と」
 伊隅に居た頃、皆に伝えられていた真実。戦闘が行われるたびにやってくるのは嘗ての仲間だ。もう私達の言葉には砲弾という返答しか返さない鬼となったが。
「恨めっこない。私は嘗ての仲間と戦ったら生きている。こんな言い方したくはないし、齟齬があるけど、深海棲鬼になってしまった仲間が居たから私は今生きている」
 言い換えるならば、死んだ仲間が居たから私は今生きている。それは、紛れも無い事実だから。
「戦うのは二人と一緒さ。殺そうとしてくるから殺した。けど、私を助けてくれた人が私を殺しに来るんだよ。敵意はあれど怨嗟は抱けなかった。だけれど、私は容赦しなかった。戦闘に於いて考える時間はなかったからね。同時に、例え嘗ての仲間でも、殺すのがせめてのももの手向けと私は信じていたよ」
 伊勢は、私の言葉を聞いて悲しそうな顔をした。
「貴方……そんな事を思いながら戦ってきたのね。私には、無理かな。勿論敵が来たら戦う。けど、深海棲鬼が嘗ての同胞だと知った今は、きっと、その手は鈍ってしまう」
「心配するな、伊勢よ。もう皆何も覚えてはおらん。肉体ももう別物と提督は言っていた。それは既に別の誰か、別の何かと言っても過言ではない。それに……手向けか、お前もそう思えば良かろう」
「貴方、何故味方を殺せというのよ」
 それは私も疑問だった。姫は、どちらかというと艦娘に同情的だ。あの場で味方全員を目の前で殺されたのにも関わらず。
「お前たちにとって私が嘗ての仲間であると同様に、私にとってもお前たちは嘗ての仲間だ。それに、鬼の中で私は孤立していた。私にとって重要なのは繁栄でも勝利でもない。生
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