響ノ章
昏睡
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姫が提督執務室のそばの部屋で寝泊まりするようになってから、鎮守府の復興作業は本格的に行われるようになった。そうなると、大型艦の艦娘はそれを手伝うようになり、小型艦も料理の類等で多忙になるようになった。艦娘が、至る所に行くようになった。だからこそ、それは起きてしまった事故だった。
その日、夕食の時間に顔を出さない提督と、顔を出せない姫の為に、私は両手に夕食を持って執務室に向かっていた。
「何で深海棲鬼が!」
階段を登り、二人の部屋の入り口が見える場所になった時に、その声に気づいた。姫のものでもなく、提督のものでもない。もっと言えば、姫の事を知っている者の声ではない。私は食事を床に置いて、大急ぎで部屋に向かった。こちらであってくれと願いながら執務室を開けるが、蛻の殻だった。
「死ね!」
後ろの、姫の部屋からそれは聞こえた。急いで姫の部屋の扉を開け放つと、其処には棒立ちの姫と、床に伏した提督、そしてその上に伸し掛かる艦娘……三日月の姿があった。
「三日月何してるの!」
三日月は声を上げた私を振り返る。その顔は、困惑を浮かべていた。
「提督が、提督が……私のせいで」
「早く其処から退けて!」
「違うの、わざとじゃない、違う」
「早く退けてやれ」
姫が口に出した瞬間に、三日月は絶叫した。
「いや、来ないで、いや、いやぁ!」
三日月は提督の上から退けると、そのまま走って此方を過ぎ、廊下を走っていった。
「三日月!」
廊下に出て叫ぶが、三日月は止まらない。そうして階段の付近まで彼女が近づいた時、三日月は転んだ。私がさっき床に置いた夕食に躓いたせいだった。床に転んだ三日月は転がり、勢いが収まらぬまま壁に激突した。
「え……」
激突した三日月は、動き出さない。
「嘘、え、え、え」
廊下と室内を交互に見ながら、私は焦り困惑する。今同時に二人意識がない、どうする、どうする。
「廊下の奴の元へ向かえ。提督は私が見る」
姫が室内からそう助言する。だが、提督を姫に見させるのか? しかし姫を三日月の元へ向かわせた場合、また他の艦娘に見られる可能性がある。
「迷っている場合か」
姫の言葉を受け、私は三日月の元へと走った。近寄り、倒れた彼女の姿を見る。転がり前頭部を壁に叩きつけたのだろう。私は壁に寄りかかったままの彼女の体と首を保持し、ゆっくりと壁から離した。鼻や顎は大丈夫。額は……青くなっているが陥没している様子はない。そのままゆっくり床に横たえる。首が折れている様子もなかった。呼吸音も確認する。とりあえずは、即死したわけではないようだ。一先ず安堵の息を吐く。
「意識がないのか、あまり悠長にしていられん。早く救護できる人間を呼んでこい」
いつの間に背後に居たのか、倒れたままの三日月を見て姫はそう言った
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