8部分:第八章
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第八章
沙耶香はその夜ホテルに入った。そこで隆美と話をしていた。
「インディーズの歌手なのね」
「はい」
いるのはそのホテルのロイヤルスイート。沙耶香はそこのベッドに髪を下ろして半身を起こしていた。下はシーツの中にある。隆美はその横に寝ていた。身体はシーツの中にある。
「事務所との契約はまだですけれどその歌唱力には定評があります」
「そうなのね」
「大手の事務所も幾つか声をかけているみたいです」
「それがこの宮原紀津音」
「そして千葉理子です」
「理子、ね」
沙耶香はその名前に感じるものがあった。
「それでその二人は外見はどうなの?」
宙に煙草を出しながら尋ねてきた。
「外見ですか?」
「ええ。奇麗なのかしら」
「そうですね、外見は派手ですけれど」
理子はそれに答えた。
「奇麗な方だとは思います」
「そう」
「それが何か」
「いえ、別に」
沙耶香はその問いには答えなかった。
ただ。その奇麗さが色々と気になって」
「そうなんですか」
「それで二人は他にそちらの女の子との接触はあるのかしら」
「亜美ちゃんが危ないかも」
「亜美ちゃんというと」
沙耶香はその名前を聞いて記憶を辿った。
「確か。清水亜美ちゃんね」
「はい、彼女です」
隆美はその言葉に頷いた。
「彼女と理子ちゃんが度々会っています」
「そうなの。それは危ないわね」
「瞳ちゃんと同じですか?」
「ええ。それで亜美ちゃんは今どうしているの?」
「彼女は大人なので深夜の番組なんかにも出せるんで」
「バラエティ番組のレギュラーが入っていたわよね」
「はい、明日それの収録があります」
「わかったわ。じゃあその時に」
沙耶香はそれを聞いて言った。
「彼女から聞いてみるわ」
「お願いします」
「それにしても名前がね」
「名前が?」
「ええ。あからさま過ぎて」
沙耶香は煙草の煙を吐きながら口元にすっと笑みを浮かべた。細い目には赤い光が宿っている。
「笑ってしまうわ」
「あの、うちのタレントは皆本名なんですけれど」
「そっちじゃないわ」
隆美に顔を向けて述べた。
「あちらのことを言っているのよ」
「あの二人ですか」
「見ていて。今回は大きな事件にはなりそうもないから」
「だといいですけれど」
だが隆美はそれを聞いてもどうにも不安が残った。
「やっぱりあまり大きくなりますとうちの事務所の信頼に」
「その為に私を呼んだのよね」
「その通りです。ですから」
「私は約束は守るわ」
沙耶香は言った。
「それが契約だからね」
「契約、ですか」
「そう。契約は絶対のものだから」
これは沙耶香の世界では絶対のものなのだ。契約があり全てが動き、果たされる世界であるからだ。
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