リースリンデ
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「ううん。なんでもない。ありがとう、クロス。ちょっと元気になったよ」
ハチ達もありがとう。
ごめんね、大切な食料を横取りして。
「他に力になれそうなことがあったら、遠慮なく言ってくださいね。王都は人間が多すぎて貴女には辛いかも知れませんが、あと少しですから」
「うん」
少々出掛けてきます、と言って部屋を後にするクロスを見送ってから。
もう一度、ハチミツを掬って舐めてみる。
甘い。
「……みんなは、今頃どうしてるかな……?」
私は運良く逃れて、クロス達に拾われたけど。
仲間達は、ちゃんと逃げられただろうか?
レゾネクトに殺されてなければ良いな。
そうでなくても、無事だと良い。
アリア様。
私達に人間の言葉や習慣を教えてくださった、二柱目の優しい女神。
レゾネクトが現れたあの時、お護りできなかったことが悔しい。
導き手がいないと、私達はこんなにも非力なのね。
神々がお眠りになってさえいなければ、お助けできた筈なのに。
ごめんなさい、アリア様。
泉を想って思い出すのは、何千年も昔に出会った女性の姿。
最初の人間と選ばれた女神の貴い血脈を受け継ぐ、最後の『巫』。
「人間が嫌い? それは仕方ないわね。だって、やっぱり種族の違いなんてどうしようもないじゃない?」
神々とも人間とも違う、特徴的な白金色の短い直髪を揺らし。
彼女は穏やかに微笑んでいた。
「生命の在り様が違うんだもの。習慣も考え方も違ってて当たり前なのよ。反発だって起きて当然……え? それらが同じ筈の同族同士で争い合うのはなんなのかって? ……うーん……。それはなかなかに難しい問いかけね。一口に『同族』とは言っても、生まれ育った環境の違いとかで大なり小なり差異はあるし、一概に「こうだからです!」とは答えられないけど」
その背中で純白に輝く翼をふわふわと風に泳がせて。
彼女の淡く薄い水色の眼差しは、神々に選ばれた勇者を見ていた。
一緒に居た人間達でも、目の前に浮かんでいた私でもなく。
ただ一人、勇者だけを。
じっと、見つめていた。
「きっと……護りたいものが、一人一人違うから……じゃないかしら?」
「『護りたいもの』、か」
貴女が見つめていた世界は、こんな形だったのですか?
聖天女様……
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