暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン〜Another story〜
GGO編
第170話 過去の闇
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 詩乃は小倉で同じ事を何度も繰り返し続けた。そして、暗く沈む意識の底で、思い出した。


――きょう、にかいめ……。


 詩乃はそう思うと情けなく感じてしまう。
 最初は遠藤のあの手を見て……、吐き気に見舞われた。目の前が暗くなり、胃が激しく収縮して立つ事もままらない。どうして、こんなにも自分は弱いのだろうか。
 あの時、あの強敵を倒すことが出来て、少しは強くなったと、少しくらいは変われたと思ったのに。

 自分は、何も変わらない。

 弱く、蹲る事しか出来ない、こうやって、倒れ込む事しか出来ないんだ。


――あ、れ?……きょうは、どうやって、いえにまでかえってこれた?


 混濁する意識の中で、詩乃はそう思っていた。今日、どうやって家にまで帰ってきた?……今日、あの連中達に絡まれて、また気を失いそうになって、倒れてしまって。


――わたしは……?


 必死に、意識の底、記憶の中を思い返す。
 まだ、あの悪夢がながれている中、それは苦痛だったけれど、それでも。
 そんな時、だった。


――無理をするな。


「っ!!」

 それは一体誰の声、だろうか。

 詩乃は疲れ果て、うつ伏せに倒れて目を瞑っていたが、意識が覚醒したかの様に、目を見開いた。


――……心に巣食った痛みは、簡単に取れるモノじゃない。


 また、声が聞こえた気がした。

「ぁ……」

 詩乃は、ゆっくりと、身体を回転、寝返りをし、うつ伏せから、仰向けにし天井を見た。そう、そうだった。

『この子、気分が悪い様だ。……悪いけど、ソコ、のいてくれるか?』

 詩乃はゆっくりと、手を伸ばした。そう、あの時この手を掴んでくれた人がいたんだ。……血塗られた人殺しの手を、握ってくれた人が。

『悪かった。いきなり手なんか握って』

 詩乃は、ゆっくりと左右に首を振った。


――そんな事、ない。だって、だって……たすけて、たすけてくれたから。


 詩乃はひと筋の涙を流す。そして、同時に後悔が生まれた。

「……なん、で、なんで、わたしは、おれいをちゃんとできなかったんだろう」

 そう、あの人は手を握ってくれた。この人殺しの手を。痛い程冷たいこの手を握ってくれた人だったのに。

「――っ」

 涙は流れ続ける。

 また、また会える事はできるだろうか。今度はちゃんとお礼を言えるだろうか?

 あの時、深く考えもしなかった。……いや、考える事が出来なかったんだ。


「……たすけて」


 詩乃は、必死に思い出す。
 そう、確かあの人と一緒にいた男の人が、名前を読んでいた筈だった。


「……は、やと」



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