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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十三話 収斂
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無い。優位ではあるが勝ったとは言えない状況だ。イゼルローン要塞は攻略したが考えてみれば取り戻したに過ぎない。今のところ目立った戦果はフェザーンを攻略した事ぐらいだ。同盟軍の主力部隊は殆ど無傷で撤退している事を考えれば統帥本部の判断を臆病と笑う事は出来ない。

何より不安なのはヤンの居場所が分からない事だ。一個艦隊だがヤンが率いているとなれば油断は出来ない。思いがけない所から一撃を加えてくる可能性はある。そろそろ現れると思うんだが……、まさかフェザーン方面軍に向かった? 有り得んな、それでは俺がハイネセンを攻略してしまう。必ずこちらを足止めにかかるはずだ。

イゼルローン方面軍には警戒態勢を取らせているがどうにも不安だ。周りには気付かれないようにしているがその分だけストレスが溜まる。敵に回すと本当に厄介な相手だよ。ヤンをイゼルローン要塞で捕殺出来なかった事は痛い、あれで全ての予定が狂った。苦労させられるわ。ん、ワルトハイムが足早に近づいてきたな。

「閣下」
「何です、参謀長」
ワルトハイムの表情が硬い。来たのかな?
「ミュラー提督より通信が入っています。哨戒部隊が反乱軍と接触したそうです」
「スクリーンに映してください」
「はっ」
やはり来たか……。ヤンは艦隊の後ろにいる。挟撃を狙う事でこちらを足止めしようというのだろう、フェザーンからの同盟軍を待っているわけだ。故意に発見させたかもしれないな。予想が当たった事にホッとした。

スクリーンにミュラーが映った。何時見ても思うんだが誠実そうな好青年だ。なんで彼女がいないんだろう、女の方が男より多いんだが……。
『閣下、既に御聞きかと思いますが哨戒部隊が反乱軍と接触しました』
えらいぞ、ミュラー。友人なのに馴れたところを見せない。馬鹿な奴なら馴れたところを周囲に見せる事で優越感に浸るだろう。俺も一応言葉遣いに気を付けないと。

『反乱軍は我々の後方にいるようです。ヤン・ウェンリーでしょうか?』
「おそらく。民間人と別れて大急ぎでこちらを追ってきたのでしょう」
『……反乱軍は少数ではありますが我々は前後から挟まれた形になります』
「ヤン・ウェンリーが相手となれば少数でも油断は出来ません。全軍をこの場に集結させます。ミュラー提督も急いで下さい、但し焦らずに」
『はっ』

通信が終ると艦隊の進撃を止め、全軍に集結するようにと命じた。辛いところだな、原作ならラインハルト一人を殺せば良かった。だがこの世界は違う、俺を殺しても帝国軍が退く事は無い。だから帝国軍に決戦を挑み勝たなければならない。同盟軍はフェザーン方面軍の来援を待って決戦を挑んで来るはずだ。乾坤一擲、決死の戦い……。誘いに乗ってやろうか。



宇宙暦 799年 3月 30日  シヴァ星域  第十五艦隊旗艦デ
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