神と悪魔と人間と
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純白の翼は神々の力の象徴。
アリアの神力で心臓を貫くまで、フィレスは普通の人間だった。剣の扱いに長けてはいたようだが、常人より秀でている程度。悪魔に及ぶべくもない、非力な人間。
だが……アリアの神力に触れて覚醒した。
あれは女神だ。今はこの世界に居ない筈の、神々の血統。
「…………なるほど。堕ちた神の末裔か」
神々の輪を外れ、人間世界に隠れ逃れた堕天使。
神力が他生物に混入しないようにと断罪されていた哀れな者達にも、ちゃんと子孫が残っているらしい。天神の一族とは別の血筋が。
「フィレス……面白いな」
読んだ記憶の中に、あの二人の姿があった。恐らく彼女の力とフィレスの潜在力が引き合っているんだろう。結晶も羽根も……放っておけば、彼女に関わる総てを集めるかも知れない。いちいち探す手間は省けるが、今現在はクロスツェルが結晶を持っている。合流されたらそれはそれで厄介だ。
「回収時、か？」
フィレスの神力性質は分からない。その上、アリアがフィレスを護る為に動いた。追い掛けるのは容易いが、アリアが邪魔をするのは目に見えている。確実に抑えられるとしたらクロスツェルのほうだが、過度な危害を加えればこれにもアリアが動く。
……忙しい小鳥だ。
「アリア」
薄暗い室内から、一人きりで抗う健気な女の前に転移した。陽光に満ちた草原に一人立つアリアの頬を両手で覆い、上向かせる。
「……止めて。貴方は契約を果たしていない。世界はまだ、私の物ではない」
穏やかな振りをした静かな眼差しで、間近に迫る俺の顔を睨んだ。
「なら、何故救いの手を伸ばさない？ お前には簡単な事だ。クロスツェルにしたように、必要とする相手を助けてやれば良いだけだろう？」
「世界は昔ほど単純な構造ではないわ。誰かを助けても、別の誰かがそれに反発する。平等を受け入れないのは彼ら自身。作り上げてしまった壁を壊して一つの意思に纏めるのは、例え本物の神でも難しいのよ。時間が必要なのは当然だわ」
両手から逃れた小鳥が背を向けて俯く。
言っている内容はもっともらしいが、この状況が作り出されるのを見逃したのはアリア自身だ。悪魔共を利用して一度は掌握しかけたものを、手放して放置した。その後の人間の落胆が信仰心を薄くして、結果、新しく都合が良い偽りの救い手が氾濫する現代に至っている。
世界を護ろうと行動した末に、真逆の道を進ませてしまった皮肉。
俺には滑稽にしか見えないが、それでもと願い続ける背中は、美しいというよりも可愛らしい。
「お前の望みは俺が叶えてやる。お前は女神であれば良い。だが」
「レ……ッ……！」
丸めた体を抱き締めて耳元に頬擦る。驚いて振り向いた顔を持ち上げ、触れるだけの口付けを落とす。
青褪めた表情に笑いが込み上げた。
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