4部分:第四章
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第四章
見れば美女はようやく三十になったばかりであろうか。細面の卵を思わせる頭の形をしている。髪は黒く後ろに長く伸ばしている。黒い目は切れ長でそのうえではっきりとしている。細い眉はそれに合わせた形になっている。口は唇は薄い赤であり横にやや大きい。小柄で全体的にすらりとした身体をしている。その美女が赤い絹のドレスを着てそのうえで沙耶香の前に出て来たのである。
「矢追春香です」
「そうね。我が国を代表する奇術師の」
「はい」
矢追春香と名乗った美女は沙耶香の前まで来ていた。そのうえで沙耶香の問いにこくりと頷いたのだった。
「人はそう言ってくれています」
「謙遜する必要はないわ。それは事実よ」
沙耶香は彼女に対してこうも告げた。
「それはね」
「そうですか」
「そして」
「そして?」
「依頼のことだけれど」
単刀直入だった。そのことについて尋ねてみせたのだ。
「鏡ね」
「それも御存知なのですか」
「聞いたのはそれだけよ」
沙耶香は微笑んで春香にまた告げた。
「詳しいことは聞いてはいないわ」
「左様ですか」
「さて、それでは」
「はい、朝はまだ早いですし」
去ろうとする沙耶香に向けての言葉だった。呼び止めるものだった。
「宜しいでしょうか」
「何かしら」
「朝食はどうでしょうか」
それを誘ってきたのである。沙耶香に対してだ。
「これから」
「ここにいるのは貴女だけではないのかしら」
「雇っている人達がいます」
こう答えてきた。
「所謂メイドさんや執事と呼ぶべき方々ですが」
「方々なのね」
「お金を払っているのは私ですが私のことをしてもらっています」
こう述べるのである。
「ですから」
「そういうことでなのね」
「はい、ですから方々です」
こう述べるのだった。彼女もそれを言うのであった。
「私にとってはかけがえのない方々です」
「そうなのね。いい考えだと思うわ」
「いいですか」
「私にはないものだけれど」
うっすらと笑ってみせた。そしてそのうえでまた話してきた。
「私の辞書に謙遜やそうしたものはないから」
「ないのですか」
「そうよ。私はそうしたものは持っていないのよ」
また話す。そうしてであった。
春香に対してだ。さらに言ってみせた。
「それでもそうしたものはいいと思うわ」
「そうですか。有り難うございます」
「御礼はいいわ。さて、それでだけれど」
「はい」
話は仕切りなおしの形になった。そのうえでまた話をするのであった。話は沙耶香のペースになっていた。だが春香はそれには気付いてはいない。
「貴女はこれから朝食ね」
「そして貴女もと思っているのですが」
「わかったわ。好意は受けさせてもらうわ」
微笑んでみせたう
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