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真田十勇士
巻の十 霧隠才蔵その二
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「あの宿には今その美男はおるのか」
「と、いいますと」
「何かありますか」
「うむ、娘達は騒いでおるが」
 店の前でだ、人気の品を買うが如く集まっている。
 しかしだ、幸村は宿の者を見て言うのだった。
「宿の者は落ち着いておる」
「言われてみれば」
「そうですな」
「あれだけ娘達が会いたい会いたいと言っていますのに」
「宿の者達は落ち着いています」
「それでは」
「今その美男は宿の中にはおらぬか」 
 こう言うのだった。
「では何処におるのか」
「あれだけ娘達が会いたいと言っている者です」
 それならとだ、伊佐も考える顔で述べた。
「下手に町に出ますと大騒ぎになります」
「そうじゃな、しかし宿の者を見ておるとな」
「宿の中にはおらぬ」
「となれば町に出ているが」
「どうして外に出ているかですな」
「化けておりますな」
 忍の者としてだ、由利はすぐに察した。
「別の顔なりその顔を隠すなりして」
「うむ、忍は化けるのも術のうちじゃ」
 それこそとだ、幸村も話す。
「旅芸人なり虚無僧なりあるが」
「虚無僧、ですか」
 虚無僧と聞いてだ、誰もが目を光らせた。何しろ幸村も含めて誰もが忍の術を身に着けていて相当な腕前であるからだ。
「有り得ますな」
「あれは顔が見えませぬし」
「化けるには丁渡いいですな」
「それでは」
「まだ町にいるやもな」
 幸村はこう考えてだ、そのうえで。
 宿の前から離れた、そしてだった。
 幸村は家臣達にだ、こんなことを言った。
「これは拙者の勘じゃが」
「その美男はですか」
「殿が求められる優れた者ですか」
「そうやも知れませぬか」
「うむ、宿から化けて出るとなるとな」
 このことから言うのだった。
「忍術を身に着けておるやも知れぬ」
「そしてあれだけ娘達に騒がれていても」
「それでも町に出られるとなると」
「相当な化ける術の達人」
「それならば」
「会いたい」 
 是非にとだ、幸村は言ってだった。
 そうしてだった、彼は家臣達にこうも言った。
「では怪しい者を探そう」
「はい、これより」
「そうしますか」
 こうしてだった、主従は宿屋の前から離れてだった。
 大津にいるそうした者を探すことにした、するとすぐにだった。
 幸村は茶屋で一人の虚無僧と席を隣にした、虚無僧は顔を見せないが。
 その虚無僧にだ、幸村は茶を飲みつつ問うた。
「宜しいか」
「何でござろう」
 透き通った高い男の声が返って来た。
「それがしに何か用でありましょうか」
「貴殿、宿におられましたな」
 幸村は自分の横に座る彼にだ、正面を見たまま問うた。
「左様ですな」
「何故そう思われる」
「虚無僧は化けるにはもってこい」 
「顔を隠すにはと
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