暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
クロスツェルの受難 C
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さえておかなければ、あっという間に埋まってしまう。
 問題は宿代だ。リースは良いとして、二人分一週間は懐に厳しい。都は地元の人手で事足りる為、極端に仕事が少ない。アリアの情報探しはベゼドラに任せて、自分は仕事探しと踊り子を兼任するしかないか……。
 「リースの朝露には、条件などあるのですか?」
 ひとまず借りた一室で、一週間の予定を組む事にした。
 ベゼドラは放置しても大丈夫だと思うが、リースはそうもいかない。今一番気を付けるべきなのは、彼女の体調管理だ。
 「朝陽を浴びた花葉に付いた雫なら大丈夫。自然に溜まった物が一番良いんだけど、無ければ池とか泉の水滴を垂らして飲むの。重要なのは花葉の表面に積もった生命力を貰う事だから」
 「雫よりも、生きた花等であるかどうかが問題なのですね。切り花では不足でしょうか」
 「毎日切ったばかりの花なら良いけど……土に接してるほうが力になるわ」
 「植木ではどうですか? こういう形で土に植わってるのですが」
 二台あるベッドの境に置かれたサイドテーブルを飾る赤い花の植木鉢を持って、右肩に乗っているリースに近付けてみる。
 鉢に植える習慣があるのは人間だけなのだろう。不思議そうにじっと見つめ、ぴょんと花に飛び移った。
 「……うん。とても元気だわ。この子に朝陽を浴びせて水滴を垂らせば大丈夫。私、此処に居ても良い?」
 「そう……良かった。では、宿に居る間はこの花がベッドになりますね」
 「うん」
 少し大きな花弁の上に、ころんと横になった。
 見た感じは元気そうでも力は残り少ないと言うし、辛いのだろうか?
 震動で落としてしまわないよう、テーブルにそっと戻す。
 「今日が一週間の初日として、残り六日……私は教会関係で手が離せそうもありません。だからと言って、人間に悪戯をしてはいけませんよ、ベゼドラ」
 真四角な白い部屋を照らす大きな窓に寄り掛かって外を眺めているベゼドラに、念の為、釘を刺しておく。へいへいと適当に手を振って流してはいるが……旅を始めて以降、ベゼドラは一度も女性に乱暴していない。多分、ロザリア以外は女性として見ていないのだろう。その点で心配する必要は無さそうだ。無闇に男性の生命力を喰って良い訳でもないのだけど。
 「丸くなりましたよねぇ」
 「あ?」
 「いえ、なんでも」
 サンドイッチに(こだわ)り出したり、結果的には人助けしてたり。
 私の説教があるにしても、彼の行動はきっと悪魔らしくない。今の彼をロザリアが見たら、笑うのだろうか。呆れるのだろうか。
 知るかよバカ。なんて幻聴が耳の奥を擽って……少し笑えた。
 

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