クロスツェルの受難 C
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「あらそう? 残念」
何がどう残念なのですか……っ!
「じゃ、また明日ね」
ぽんぽんと二回肩を叩いてから執務室へ戻って行く背中を見送り、頭を抱えて盛大な溜め息を吐き出した。胃が不快感を訴えているが、一週間耐えるより他に無い。
軽く拷問だ……。
「クロスツェル」
「!!」
聞き慣れた声に顔を上げれば、いつも通りの見慣れた顔が正面から自分を見下ろしている。
咄嗟に腕で顔を隠そうとするが、彼は興味無さそうに「何してんだ?」と半眼になるだけ。
「……そうでしたね。貴方は自分の目的以外、どうでも良かったんでした」
「あ? 何をいまさら」
ええ。私の感覚と貴方の感覚の違いに、改めて大きな開きを実感しているだけです。
「お前が女装趣味の芸人崩れだろうが変態だろうが構わないが……」
「女装趣味でも芸人でも変態でもありません! 必要が無ければこんな格好、死んでもお断りですッ!!」
ギッ! と睨み付けたら「お……おぉ……」と言いながら数歩退いた。
……アーレストの時もそうだったが、自分は悪魔に怖がられるほど凶悪な顔をしているのだろうか?
しかし、今の発言は断じて許容できない。
私にだって男性としての自尊心くらいは有る。ただ、プリシラやアーレストにはどうしても頭が上がらないだけだ。
「はぁ……渡国申請の協力はお願いしましたが、認可されるまで一週間掛かるそうです。私はその間、教会で踊り子の真似事を命じられました。そう長くは拘束されないでしょうが、貴方は別口で都内外を探っていただけますか」
「ああ。都内に悪魔の気配は無かったが……周辺を洗ってみるか」
「お願いします……少し待っていてください。着替えてきますから」
椅子から立ち上がって、代わりに座ったベゼドラをその場に残し、プリシラが使っている執務室の隣の部屋に足を運ぶ。
途中、数人の信徒と擦れ違った。彼らの好奇心と僅かな同情に満ちた視線が痛い。
プリシラの破天荒ぶりは教会内で有名だからな……。
昔は孤児のクセにと陰口ばかり言われたものだが、プリシラとアーレストが友人になってそれはピタリと止んだ。寧ろ好意的に同情されるようになって、慰める者まで現れたくらいだ。気付くと化粧付きの女装をさせられている様子が、よほど哀れに見えたのだろう。
しかし、自分は同情して欲しい訳でもないし、プリシラ達が嫌いなのでもない。苦手ではあるが……本当に苦手ではあるが。
彼らが教えてくれた事は数え切れない。感謝しているのだ、これでも。
もう少し穏やかに対話できる性格なら、誇りを持って堂々と親友です……と言えたのだが。
教会を出て、まだ明るい内に都の出入り口付近で宿を確保した。
大規模な居住地は、それだけに人の出入りが激しい。空室は早めに押
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ