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逆さの砂時計
クロスツェルの受難 B
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られるなってクロスツェルにしつっこく説教されてるからな。いちいち面倒臭いが余計面倒になるよりはマシだ。
 植え込みを乗り越えて表側に戻ると、座って演奏する舞楽団の背中とその向こうに見物客が見えた。踊り子は噴水の影に隠れてる。
 「楽器の種類も増えたんだな」
 小さな太鼓が軽快にトコトコと鳴り、澄んだ横笛の音と鈴の音がそれに重なる。中でも初めて聴く弦楽器の流麗な響きが耳を惹く。何者だ?
 見物客の最前列に紛れ込んで……

 絶句。

 弦楽器を弾いてたのは、真っ白な長衣を見事に着こなす、緩やかに長い金髪を持った華やかな女だ。
 胡座の姿勢で丸っこい楽器本体を太股に乗せ、其処から上部へ伸びる縦長な部分に張られた弦を、素早く丁寧になぞってる。
 その藍色の目と時々楽しそうに視線を交わして音楽に身を委ねてるのは、半透明なショールの両端と鈴を両手の中指に巻き付けた……クロスツェル。
 肩を露出し、腹部を曝して。前面を膝下、背面を踵まで覆う絹布を腰に巻き、ショールと同じく半透明なゆるゆるのズボン? を履いて、漆黒の長い髪を自由に遊ばせながら裸足で踊ってる。額には小さな赤い宝石が付いたサークレット。両耳には大きな金の輪。首元には細い金の鎖が三重に掛けられ、足首にも鈴付きの輪が填まってる。
 「……………………。」
 見物客の前で笑顔を振り撒きながら。髪の先から足の爪先に至るまで、全身を使ってくるくると。軽やかにくるくると……慣れてんな、アイツ。
 最後だったらしい一曲が終わって、一際大きな歓声が敷地内外に響く。
 拍手を贈られた一同は立ち上がり、一礼して……クロスツェルだけが俺に気付いた。
 「……ッッ!!!」 
 分かりやすく青褪めてやんの。
 両腕で顔を隠して、サッと教会に逃げ込みやがった。
 化粧してたからなー。

 ……さすがに、俺もどう反応して良いのか分からん。


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