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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇
21部分:第二十一章
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第二十一章

「それもね」
「そうですね。お酒もですね」
「どんどん飲むといいわ。飲めるだけね」
「このお酒も何か」
「いいものでしょう。日本酒は上等なものは幾らでも飲めるものよ」
「そうですね。本当に」
 応えながら飲んでいく。彼女が飲んでもであった。その味は絶品であった。彼女がこれまで飲んだこともないような、そうした味であった。
「こんなお酒ははじめてです」
「お酒は楽しんで飲むもの」
 海のものも楽しんでいく。そのうえでのやり取りだった。沙耶香も美女もだ。そのオコゼや蛸、それにハマチといったものを口にしながら。食べていく。
 それが終わると沙耶香は美女と別れた。そのうえで向かったのはあのバーだった。昨日訪れたそのバーにまた入ったのである。
 店に入るとカウンターを見た。しかしそこにいたのは。
 昨日の美女とは別人だった。外見は同じだ。だが髪型とその色が違っていた。昨日の彼女は黒髪を左にくくっていた。しかし今カウンターにいる美女は髪は茶色であり右にくくっている。そこが違っていたのだ。
「昨日の彼女とは違うのね」
「昨日は姉が勤めていました」
 声も微妙に違っていた。声の色は同じだが声域が違っていた。昨日の美女はリリコ=ソプラノだったが今日の彼女はリリコ=スピントのソプラノだった。彼女の方がやや低かった。
 その彼女がだ。自分は妹だというのだ。
「双子の」
「そう。双子のなのね」
「昨日は私が休みで」
「今日は彼女がなのね」
「そうです。姉が何か」
「いえ」
 あえて夜のことは言わなかった。しかしであった。
「何もないわ。ただ」
「ただ?」
「彼女がいないのならね」
 カウンターに座りながらだった。そのうえでの言葉であった。
「貴女がいるわね」
「私といいますと」
「そうよ、貴女がいるならそれでいいわ」
 言いながらそのうえでカクテルを頼んだ。エンゼル=キッスだ。
 しかし今はそのカクテルは口にしなかった。それが入れられているグラスを見てだ。そこに出て来ている自分以外の顔を見ながらの言葉だ。
「それならね」
「私がいいとは」
「夜は長いわ」
 カウンターの美女に顔を向けての言葉だった。
「まだね」
「長いといいますと」
「いい場所を知っているわ」
 今は答えずにこう述べたのである。
「場所をね」
「場所を?」
「そうよ。お店が終わったらそこに行きましょう」
 誘いの言葉だった。それを言ってみせたのである。
「いいわね」
「どうした場所ですか?」
「すぐにわかるわ。ただ」
「ただ?」
「貴女はまだ知らないのかも知れないわ。それでも知ればね」
「?一体何が」
 美女はカウンターの中で首を傾げさせていた。沙耶香が何を言っているのかわからなかった。それを話し
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