第三十五話
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きている。わざと蹌踉けて俺にしがみついてきたりもした。
むむん……。
階段はライトを消せば完全な闇に包まれるほど濃い黒色だ。
今のところ、先ほどまであった人の気配がもはや感じ取れなくなっている。
意識集中し辺りに探りを入れてみる。
……先ほどまであった気配はどうやら無くなっている。ただの気のせいか、もしくは既にどこかに去っていったのか?
連中は息を潜めて部屋で待っているのかもしれないな。
そんなことを考えながら階段を下りると、すぐに地下一階のフロアに降り立った。
中央にエレベータと階段があるこの建物の地下は、階段を中心に扇形に部屋が構成されているかのようだ。
階段を出たすぐのフロアを取り囲むように、同じようなドアが円を描いてずらりと並んでいるのが見える。扉の向こうはさらにいくつもの小部屋に分かれていたりするんだろうけど、それをいちいち見て回る暇もないし、あまり興味もない。
「ウルシダという奴はどこにいるの? 」
「ちょっとまって。電話してみるから」
といって携帯の画面をみると【圏外】表示が出ていた。……地下だから当然か。それに一応は病院なのだから電波を遮断する措置がとられているのかもしれない。
電話が使えないんなら仕方ないな。とれる方法っていえば音声による呼びかけしかないだろう。
「おーい、漆多ぁー。俺だ、月人だ。どこにいるんだ」
声を張り上げて叫ぶ。
建物に声が反響する。わんわんわん。
少し間をおいて反応があった。
コツコツと地下に響く足音がかすかに聞こえる。
ガチャリ……。
俺たちが立つ場所から左手のほうにある扉が、金属が擦れる耳障りな音とともにゆっくりと開く。同時に明かりが漏れてくる。
ドアの向こう側から手が伸びてきて、こちらに手招きをする。
「こっちだ、こっち」
ライトの光で向こう側がよく見えない。誰かが立って手招きしているのだけはわかる。
くぐもった弱々しい声ではあるけれど、声の主が漆多であることは間違いない。
俺は扉の中へと入っていった。
携帯のライトで照らしてみる。部屋の奥にはいくつもの扉付きのが並んでいて視界を遮る。
どうやら倉庫だったようだな……。
部屋の全体像を見るために俺たちは部屋の中央へと歩む。
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