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珠瀬鎮守府
響ノ章
深海棲鬼
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。私が知っていて、彼女達が、一般の艦娘が知らないこと、それは。
「極秘事項だ。お前たちは退出しろ」
「提督!」
「退出しろ」
「蒼龍、飛龍、隊長……それを尋ねる覚悟はあるの?」
 私は尋ねる。その、本当に単純な現実を知る覚悟は有るか。確かに前線では噂になっていることが多い。だが、少なからずこの港で過ごしてきた一年間、それを本当に信じている者はいなかった。
「話シテヤレ、提督ヨ。ソレトモ、奴ラハ知ッテ立チ止マルヨウナ部下ナノカ?」
 姫からの言葉で、提督は観念してその簡単な事実を告げた。
「深海棲鬼、それは嘗ての艦娘だ。轟沈した艦娘が凡そ一年後に、大概の場合同じ艦種の深海棲鬼として現れる」
 告げられた事実に、蒼龍達は言葉を発することを暫し忘れた。
「じゃあ……私達が殺してきたのって、艦娘なの?」
「轟沈、つまり死亡してから深海棲鬼になるまで一年後だ。海で一年も経てば肉体は残らん。それは既に別のものだ。ただ、姫の言うとおり、何か一部はそのまま残っているのかも知れないが」
 三人が言葉を失う。あの日、皆戦った。隊長にいたってはその手で殺した。それが……その手で殺したものが、いつかの艦娘だとしたら。
 何故戦い、何故殺しているのかわからなくなる人も、いるだろう。
 無言で満たされた場を破ったのは、隊長だった。
「お前たちは」
「……続キヲ言エ隊長ヨ」
 言い淀んだ隊長に、姫が続きを促す。
「先日の戦闘で、私は重巡洋艦と近接戦闘を行った。鹵獲という言葉も浮かんだが、その……戦闘中に付けた刺傷がかなり深かったこともあり、殆ど介錯に近い事を行ったのだが、今際の際、重巡洋艦は確かに私に死にたくない、そう言った。あれを言った人格は……艦娘の物だったのか」
 それは、何と残酷な事だろう。他の艦娘を守るために、生を懇願する一度死んだ艦娘を、その手で殺したのだ。一度も死んだことのない艦娘の為、彼は二度目の死を嘗ての艦娘の人格に与えた。
「恐ラクハナ」
 何て意味のない。互いに痛みを感じ合って、互いに死にたくないと涙し、生にしがみつくために藻掻いた結果が、この終わらぬ殺し合いか。
「ダガ、終ワラセル事ナド我々ニハ不可能ダ。繁栄、ソレハ生物ノ根本的思考。痛ミ故ニ互イニ矛ヲ収メヨウトモ、絶エル種トシテノ本能ガ戦闘ヲ再開サセルダロウ。コノ戦争ハ、オ前タチガ私達ヲ絶滅サセルマデ終ワラヌ」
「では何故お前は戦線復帰を望まぬ」
「私ハ目先ノ生ヲ優先スル。ソレニ、私ハコノ戦争ニハ疑問ヲ抱キ色々ト調ベテイタ。途中デ気ヅイタノダ。コノ戦争ノ無意味サヲ。ソシテ、何ヨリモモウ、戦争ニハ疲レタ」
 この姫がいつ、深海棲鬼となったのかはわからない。だが、きっと今まで幾度も戦ってきたのだろう。本人は繁栄に積極的ではなかったようだし、きっと、死なないためにずっと
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