15部分:第十五章
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第十五章
「なあ」
「はい?」
「これからどうするのかしら」
問うたのはこのことだった。
「これからは。まだ楽しむのかしら」
「いえ」
夫人の言葉は断るものだった。
「もう帰らないといけないから」
「これで終わりなのね」76
「また会えたらいいけれど」
「会えるわ」
夫人の言葉に微笑で返してみせた。
「それもすぐにね」
「だといいけれど」
「会いたいと願っていればそれは適うものだから」
「神かしら」
「ふふふ、そうかも知れないわね」
沙耶香の知っている神は少なくとも十字架の主が信じていたあの神ではない。だが彼女はそれでも今はあえてぼかして言ってみせたのである。
「願えばね」
「それが適うのね」
「そうよ。だからまたね」
「ええ、また」
「会いましょう」
言いながらであった。そっと夫人から離れて気付かれないように右手の親指と人差し指でパチンと鳴らしてみせた。するとその裸身を黒い下着とガーターが覆った。髪は既に風呂からあがったその時にまとめられている。
そしてその右手の人差し指を胸の前で右から左に一閃させるとであった。今度は漆黒のスーツが身体を覆った。これで服を着たのである。
服を着てからだ。そうしてまた夫人に言ってみせたのである。
「シャワーは浴びないのかしら」
「それはいいわ」
「どうしてかしら、それは」
「残しておきたいから」
これが彼女の返答だった。
「だから」
「残しておきたい。私をなのね」
「そうよ。貴女の香りをね」
それであるというのだ。他ならぬ彼女の香りをである。
「今日は私に残しておきたいのよ」
「それでなのね」
「そうよ。そして貴女とのことを覚えておいて味わっておくわ」
「独特ね。というか楽しんでいるのね」
「ええ、楽しんでいるわ」
それを否定しない夫人だった。それをだ。
「そしてまた会う時まで覚えているわ」
「わかったわ。それでは覚えていてもらうわ」
「またね」
「はい、それではまた」
こう言ってであった。二人は別れた。そうしてであった。
沙耶香は一人になると暫く東京の街を歩いていた。そして足を大塚に向けたのであった。所謂ホテル街だ。彼女はそこに入ったのである。
コンビニもあれが中華料理店もある。道路の向こうにはわりかし大きなスーパーもあり中々便利な場所である。駅を少し行くとそのホテルが集まっていた。沙耶香は幾つかあるそのホテルの一つに入ったのである。
ホテルのロビーは広いが係の者の姿は見えないようになっていた。そして右側に部屋のパネルが並んでいる。沙耶香はその一つのボタンを押した。
そして係の者からキーを貰った。それからエレベーターで階を上がりその階に辿り着いた。部屋の前に来るともう扉のランプが光っていた
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