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逆さの砂時計
クロスツェルの受難 A
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上げる、噴水の高さよりも大きく立派な三つの入り口扉だ。信徒が出入りする時間帯は常に全開になっていて、関係者以外でも自由に見学可能。
 「……相変わらず、此処は人が多いんですね」
 都民が活発に動き出す時間には少し早いくらいなのに、既に礼拝客が教会内部で列を作っている。
 アリア信仰そのものは、他の宗教と比べてもまだ大きいほうだ。ただ、人は人が多い所に集まる傾向があるらしい。地元が寂れる気配を感じた若い信徒は、何故か都へと移住したがり、中央教会での立身出世を良しとする。結果、地方教会の担当神父は外れクジの扱いを受け、強制派遣で一定数は保っているものの、地方神父の数は年々減っているらしい。それは旅を通して直に見て来たから間違いない。この辺りはベゼドラが皮肉に語っていた利己精神に繋がるのかも知れないな。
 入り口正面奥の礼拝堂に並ぶ信徒の列を避けて、その両脇に構えた二階への階段を右方向に上る。
 人がたくさん集まっても話し声が聞こえないのは、それだけ彼らが熱心だからだろうか。昔は自分もあの中に居た筈なのに……ロザリアを知ってしまった今、気分は複雑だ。
 上った先には一階の礼拝堂分広い空間が在り、長椅子が六脚と丈高の装飾台四つ、その上に色鮮やかな花々が活けられた陶製の花瓶が置かれ、信徒の心を和ませる。
 其処を左目に捉えつつ右に曲がり、複数の大きなガラス窓が光を注ぐ直線の廊下を進む。
 幾つかの扉を通り過ぎ、突き当たり正面。両脇に丈長の燭台を揃えた焦げ茶色の扉を軽く叩く。
 「どーぞー」
 おや、珍しい。直ぐに応答するとは。
 「失礼します」
 「……! クロちゃん!?」
 扉を開いて中を確認すると、バルコニーを背負って机と睨み合っていた金髪藍瞳の女性が、華やかな顔をパッと持ち上げて勢いよく椅子から立ち上がった。
 ……聖職者が唇に紅を塗るなと言うのに、この女性は……。
 いや、今は自由で良いと思いますけどね。
 「ドコ歩き回ってたのよクロちゃん! 貴方、東区の信徒から物凄く心配されてたわよ!? 事務仕事増やさないで頂戴、腹立つわね!」
 肩を露出したまま、膝上で切り揃えた元長衣の裾を乱暴に蹴って近寄らないでください。しかもまた裸足ですか。貴女、本当に聖職者の自覚……突っ込み入れても仕方ないんですけども。
 「すみません、プリシラ。多大なる事情があって、断りを入れる余裕も無かったのです」
 この女性に過小表現は禁物だ。ならば! と何を言われるか分かったものではない。
 「まぁ、そうでしょうね。貴方ほどアリア様に心酔していた神父は他に居なかったもの。それを放り出す事情って何? 事と次第によっては査問委員会が動くわよ」
 「異端審問官ではなく?」
 「東区に赴任希望しなければ、此処に座ってたのは貴方なのよ? 気遣いとかいろいろ
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