暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
クロスツェルの受難 A
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うん」
 右手を左胸に近付けて、リースがよじよじとコートの裏に入ったのを確認する。顔だけを出し、大丈夫と頷いて合図してくれた。
 「ベゼドラ。まずは王都の中央教会に跳びます。教会には私とリースだけで行きますので、貴方は念の為、王都内でアリアに関連する情報が無いか探ってください」
 「王都? なんで」
 「中央教会に私の友人が居るんです。各方面に顔が広い方なので、申請の協力をお願いしてみようかと」
 「ふーん」
 大して興味無さそうに、あっち? と南東の方角を指した。そうですと答えると、素早く地面を蹴って空高く舞い上がる。
 ……人目に付かないように気を配ってないと、これはこれで国軍の方々に追われそうだ。
 「行きます」
 リースに聞こえる声で宣言してから、トンッと地面を蹴る。
 ぶわっと襲ってくる風が髪とコートの裾をバタバタと揺らし、数秒の浮遊感後、地面に吸い寄せられてストンと踵で着地。足先を倒した勢いでまた跳び上がる。
 ベゼドラの背中にしがみ付いて跳ぶのとは、感覚が全然違う。解放感というか……とにかく気持ちが良い。これを好きに体感できる悪魔が羨まし……
 「……ふふ。私も相当壊れてきましたかね?」
 最近は誰かを羨むばかり。羨ましいなんて……以前はそんな事、思ってもいなかったのに。
 ロザリアに出会ってからは欲が深くなる一方だ。神父の自分が今の自分を見たならきっと、汚らわしいの一言に尽きるだろう。
 なんて、考え自体が滑稽か。
 「過去を思っても、変えられるものではありませんし……ね」
 無駄な思考力は貴女を取り戻す為に使うとしましょう。差し当たって、友人のご機嫌取りの方法を、可能な限り胃に優しく納める手段の考案……とかかな……。


 王都は、この国の丁度真ん中。中央区北寄りの高い山頂に純白の石壁が目映い王城を見上げ、南に向かうなだらかな下り地形の上に巨大な都市を抱えている。
 王城に合わせてか、都の建物は全て白い石壁。瓦屋根も空に溶け込む青色で統一。健康な歯列を思わせる乱れが無い建造物の群列が生み出した美しい景観は、他国からも手放しで賞賛されているらしい。
 この国のアリア信仰本山である中央教会は、その美しい都のほぼ中心に二本の尖塔を掲げ、白壁に刻まれた無数のガラス窓と精緻な彫刻で陽光を弾きながら凛と佇んでいた。
 敷地境を示す鉄柵のアーチ部分を潜ると、正面に真っ直ぐ伸びる石畳が敷かれていて、その幅は大の大人が横一列に十人並べるほどもある。両脇には芝生と低木、等間隔に背高な常緑樹が左右対象で植えられ、来訪者を快く歓迎する。
 石畳を教会本体に向かって進めば、行く手を遮る見事な円形の噴水がお出迎え。歩き疲れた客の為に簡易な椅子も設置されているが、目指すはそれを少し迂回した先。手摺付きの階段を五段上がって見
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