巻ノ九 筧十蔵その十二
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「采配に無駄がなく」
「しかもじゃな」
「無用な戦も避けています」
「民に害を及ばさぬ」
「見事ですな」
「兵の足は遅いがな」
「徳川殿は本来は兵の采配は速いですが」
実は家康の采配は速いことでも知られている、神速とさえ言われる兵の動きでも天下に知られているのだ。
しかしだ、それでもなのだ。
「ここはあえてですか」
「少しずつでも確かに国を収めることを優先させておる」
「だからですな」
「徳川殿は今は歩みが遅い」
兵のそれはというのだ。
「甲斐と信濃を少しずつでも確かに手に入れておるのじゃ」
「そういうことですな」
「うむ、しかし確かに兵を進めておられる」
そして甲斐、信濃を手に入れているというのだ。
「だからな」
「やはりこの上田にもですか」
「来る」
このことは間違いないというのだ。
「間違いなくな、先のことでもな」
「では備えをですな」
「このまま進める」
戦のそれをというのだ。
「よいな、そしてじゃ」
「徳川殿の軍勢が来ましたら」
「戦う」
まさにだ、そうするというのだ。
「そして退けるぞ」
「ですな、そしてその頃にはですな」
「あ奴も戻って来る、そしてじゃ」
「共に上田を守る備えをしますか」
「さて、どれだけの者をどれだけ揃えてくるか」
昌幸はその目を鋭くさせて嫡子に言った。
「見せてもらうか」
「そのこともですか」
「うむ、楽しみではある」
幸村のその働きがというのだ。
「帰って来る時もな」
「ではあ奴が戻ってから」
「本格的にですな」
「守りを固めようぞ」
こうしたことを上田で話していた、徳川の軍勢は北に進み真田は備えを進めていた。織田家がいなくなった信濃は再び戦国の坩堝に陥ろうとしていた。
巻ノ九 完
2015・6・7
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