虎と龍の舞う終端
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飛んで行けるような突き抜けた空には雲一つ無く、穏やかな心は晴れ渡る。
額に矢を突き立てて、踏まれて泥と血に塗れた男の死体に……赤い髪の少女が一人、目を伏せた。
「……来世では平穏に暮らしてくれ。戦なんか……この乱世で終わらせるから」
白い馬に乗った“普通の人”は、普通の兵士の想いを間違えない。“普通の人間の一部”がどんな行動に出るかも間違えない。
謝ることもせず、約束と祈りを残して、彼女はまた戦場に意識を引き戻した。
ゆっくりと振り返った先、桃色の髪は泥に塗れることなく戦場の風に靡かれていた。
†
異質な戦場の中で優勢に立っていたのは姉さまだった。
飛将軍相手に圧し勝つなど、この大陸で誰が出来ようか。しかして、私は狂気の一端に気付くのが遅れた。冥琳の叫びを聞いて初めて気付くことが出来た。
その時には遅く、一人の兵士が矢を姉さまに向けていて……姉さまはそれを分かった上で……笑った。
遠くともよく見えるその表情は、安心と充足に満たされたモノが浮かべるはず。まだ乱世は終わってすらいないというのに、姉さまは死を受け入れたのだ。
ただ……兵士から矢が放たれるよりも前に、赤い髪が視界の端で駆け抜けた。
馬上よりの一矢は鋭く速く、姉さまが剣を振る前に兵士に突き刺さった。唸りを上げる敵の矢は真っ直ぐに姉さまの元に向かうも、僅かに逸れて掠っただけ。
叫びすらあげられぬ一瞬の出来事。
――ありがとう白蓮……。
矢を目で追った私は、姉さまの無事に安堵する……前に、驚愕に目を見開いた。
――何が起きたというの……。
視線の先にあるのは崩れ落ちる飛将軍の姿。そう思っていた。
けれども其処に見えた光景は全くの別。姉さまは生きていた。そして……飛将軍も生きていた。
呆然自失、子供が呆けたような顔をしている呂布は、二人の兵士に覆われて守られていた。
あの一瞬で駆けていた兵士達は姉さまを殺そうとしていたわけでなく、飛将軍を助ける為に駆けていたのだ。
見れば赤兎馬も脚を自分から曲げて姉さまの剣を無理やり避けさせたらしい。
背中から血を流して死んでいる二人の男が居なければ、そして赤兎馬の独断がなければ、飛将軍は真っ二つになっていたに違いない。
それに一番驚いていたのは姉さまだった。届くと思っていた剣が届かず、自分が死ぬことも無く、なんとも中途半端な状況に置かれてしまったモノだ……なんて、絶対そんな感じのこと考えてる。
そうして少しの間が出来た隙にと、幾人もの兵士が姉さまと、孫呉の精兵達の前に立ちはだかった。
「はっはっ! 野郎共! 虎を殺せるのは龍だろ!」
『あたぼうよ!』
「飛将軍に仕事譲ったのは間違いだったのかもなぁ!」
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